休日の午後だというのに、電車内は比較的混んでいました。つり革をつかんで、窓の外をぼんやりながめていると、
「あのー。失礼ですがH君じゃないでしょうか? 荻中の」
突然、横からのぞき込むように、男の声が、
「おおーっ。Oか!! イヤイヤイヤ、びっくりしたよ。こんな所で会うとはなぁ。何年ぶりだ?」
私の大きな声に、まわりの数人が何ごとかと振り向きました。
「中学卒業以来だから、15年以上は経つだろうな。さっきからHに似ているなと思って、見ていたんだ」
Oとは中学校時代、1-2年同じクラスでした。おたがい、クン付けで呼んだことなどありません。おそらく人違いの場合を考えて、クン付けで声をかけたのでしょう。男前ではない2人には、そんな心配は無用です。一度見たら間違えようのない顔ですから。[写真:中学1年の学芸会の出演者、右上がH、左から3人目がO]
「で、どうしてたんだよ?」と、私が尋ねると、
「いや、おやじの仕事の都合で高校は岩手に行ったんだ。都立には受かったんだけど、入学式にも出ずじまいだ」
「そうか。岩手か」
「うん。岩手の水沢って所だ。高校3年の時にまた東京に戻ってきて別の高校に編入した。数ヵ月だけな。大学からはずっとこっちだ」
「へぇー、結構大変だったんだな。で…」
私がそう言いかけると、
「悪い、H、俺ここなんだ」
「えっ、ここって阿佐ヶ谷なの? 俺は東小金井だ」
そう言うと、たがいに、あわてて名刺交換をしました。
「近いうちに、会おうぜ」
「うん、わかった。連絡するよ」
たったひと駅のあいだの会話でしたが、その余韻は、私が下車する数駅先まで続きました。
30数年前のことを、まるできのうのことのように覚えているんだな。記憶力がよくない僕は、同じ場面をぼんやり覚えているだけだ。そういえば、中学生のHは成績よかったな。(O)
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