アイスフィールドハイウェイを走ること6日間。次にめざすはアメリカ・モンタナ州のグレイシャー国立公園です。4-5日の行程でしょうか。
私は、カルガリーを経由せずに山なかの道を走りたくなりました。バンフの町の混雑に圧倒されたようです。
地図には Gravel（砂利道）の表記が、途中に2227ｍの峠もあります。トランス・カナダ１号線をはずれると、しばらく続いた舗装路もラフロードに変わり、車もめったにやってこなくなりました。山々をひとり占めして走っています。
いや、峠まであとわずかですが、きつい押し上げが続いています。そんな私を見て、うしろから来た車から声が掛かりました。
「おーい。乗ってくか?」
車の中には青年が二人。私が異国人なので少し驚いたようでしたが、
「どこまで、行くんだ? 乗せてやるよ」
今までも何度か同じように声を掛けてもらいましたが、ことわっていました。ただ目的のキャンプ場は峠を越えて、まだ30㎞先になります。この日ばかりは言葉に甘えることにしました。
キャンプ場の名前をつげると、
「オーケー、そこなら通り道だ。送ってやるから、うしろの荷台に乗ってくれ」
そう言うと、車から降りた二人は自転車を持ち上げ、荷台に運び入れてくれました。
車に揺られながらの峠越えです。車はラフロードにしてはスピードが出ています。私は荷台にしっかりつかまりながら、ロッキーの山々を眺めていました。しばらくして車が止まると、寒いだろうからと私を運転席に入れてくれました。
たがいの自己紹介が終わると、私に興味があるようで、質問が始まりました。まず隣にすわっているダンが、
「日本人だと思ってたよ。バッグのあれ日本の国旗だよな。で、どこまで行くんだ」
「そう。分かってた。どこって、ロスからニューヨークまで行くつもりだ」
今度は、運転中の口髭のラムが
「ロスから何日ぐらいかかるんだ? 泊まりはどうしてるテントか?」
「ここまで2ヵ月ぐらいかな。実際に走っている日数はもっと少ないけど。泊まりはキャンプ場が多いね。ときどきレストエリアや公園で野宿もした。ユースホステルも利用していたよ」
ほかにも、気に入った所、最終目的地、旅の予算、家族のことなど、いろいろと尋ねられました。ひとしきり彼等の質問が終わると、今度は私が彼らに質問しました。
ダンもラムも既婚者で職場の同僚です。その仕事というのが、アルバータ州自然資源課の環境保護官と言うのですが、それにしてはGパンにシャツというラフな格好をしています。ただ、乗車時に車にアルバータ州のナントカカントカと書かれているのを見ていました。
どんな仕事か尋ねると「一日中、ドライブしてるだけだ」と言って、二人で大笑いしていました。すると、運転中のラムが、
「おい。ノブ、100㎞ほど先に俺たちのキャンプ場があるけど、よかったら来ないか?」
「そりゃ、ナイスアイディアだ。そうしろよ、いい所だぜ」
「えっ、いいの? O.K. そうと決まれば一杯飲みたいね。ラム、酒屋があったら止めてくれ」
しばらく走ると、ラムは酒屋の前で車を止めてくれました。残念ながら15分前の6時に閉まったようです。
その後、彼らのキャンプ場に着いたのは8時ごろ、そろそろ、あたりも暗くなり始めていました。キャンプ場はアルバータ州の管理する施設か何かと私は思っていました。
驚いたことに、そこは道路から少し入った川のそばの小さなスペースです。古いキャンピングカーと小さなテーブルに椅子が二つ、彼ら二人のプライベートなキャンプ場でした。
二人は釣ざおを用意すると、暗くなる前に晩飯のレインボートラウト（ニジマス）を釣るといって、目の前の川で釣り始めました。私も自前のさおで一緒に加わりました。
魚影が濃いようで、1時間もしないうちに私が１匹、ラムも1匹、ダンは形のいいのを含めて3匹。釣り上げるたびに「晩飯だ、晩飯だ」と、いい年をした大人が騒いでいました。
あたりもすっかり暗くなるなか、手慣れた手つきでダンがニジマスのはらわたを取り、ラムが塩をふると、アルミホイルに包み、キャンプファイアーの中に放り込みます。
私は、彼らがくれた2匹のアツアツのニジマスに醤油をかけて食べました。おいしさに、なおさらビールが欲しくなりました。二人は仲のよい友人であり、ハンティングの仲間です。
何の肉がおいしいか尋ねると、ムースが一番おいしいらしく、肉は冷凍庫に保存して買ったことがないと、自慢げに話していました。キャンプファイアーを囲んでワイワイと話しは尽きず、寝袋にくるまったのは12時を回ってからでした。
42,000km by bike 