北米大陸9700km[34]:ウインドケーブ国立公園

Mt.ラシュモアから南へ少し行くと、ウインドケーブ国立公園です。周辺は相変わらず車の往来がにぎやかです。ワイオミングと違い、緑の平原がひろがり、バンフやグレイシャーで見た以上に多くのバッファローが見られました。

ウインドケーブ国立公園には、レンジャーが案内する見学ツアーが1日数回あります。5$を支払い、最終回のツアーに参加することに。レンジャーの説明によるとウインドケーブ（風の洞窟）の名前の由来は、大きな洞窟のわりに少数のしかも小さな穴しかなく、そのために外気との気圧差が生じて常に洞窟内に風が吹き抜けていることからきているそうです。

異様な形状の石の下で、レンジャーは〈ボックスワーク〉をナントカカントカと説明を始めました。私には話の内容が理解できませんでしたが、写真を1枚撮りました。帰国後、調べてみると、石灰岩の一種の薄い板状の方解石のことで、珍しいもののようです。

ツアーは洞窟内を歩くこと1時間半、自転車ばかりで歩くことの少ない私は少々疲れました。

「マリファナ吸ってみないか?」

次の目的地シカゴへは、インターステイト90号線で行くことができますが、そのさらに南を東西に走る80号線を選びました。80号線はニューヨークからサンフランシスコまでのハイウェイ、いわばアメリカの大動脈です。ならばこそ走ってみたくなりました。

サウスダコタ州から南下してネブラスカ州に入ると道はほぼ平坦になり、距離をかせげるようになりましたが、暑さは相変わらず続いていました。

80号線の合流の町 Ogallala の手前、私は休憩をしていました。グレーのセダンに乗った若い男の2人組から声がかかりました。2人の手にはビールの缶が、

「大丈夫か。ビールでも飲まないか?」
「ありがとう、何でもないよ。ちょっと休んでるだけだから。ビールは結構だ」

気のいい連中のように見えました。色々と尋ねられるまま答えていると、やがて年上の男が切り出しました。

「マリファナ(大麻)吸ったことある? 吸ってみないか。取ってくるよ、どう?」
「おおっ、いいね」

私は、ネブラスカ州法でマリファナが合法かどうか知りませんが、アメリカ合衆国法で違法であることは知っていました。しかし学者によっては酒やタバコより害が少ないと言う人もおり、どんなものか多少興味がありました。

年下の男を残し、しばらくして車はとって返すと、男は私の目の前で小さなビニール袋から乾燥した葉っぱを取り出し、器用にタバコ用の紙で巻き始めました。

「おい、吸ってみろよ」
言われるまま、一服してみました。
「どうだ? 気分いいだろう?」
「いや、別に何の変わりもないよ」
「そうか、じゃあもう1本吸ってみろよ」
「O.K.もう1本」

続けて4本吸ってみました。気持ちよくなることはなく、ただ青臭い香りがするだけで別にどうって言うことはありません。

「もういいよ。十分だよ。ありがとう」
「ビニール1袋10$だけど買わないか?」
「いや、いらないよ」
「10$なら安いぜ。どうだ」
「結構だ。じゃ行くから」

そう言うと、オガラーラの町へ向かい走り出しました。[あれはマリファナじゃなくて、乾燥した牧草か何かだな] そうとしか思えませんでした。

しばらくすると、先ほどの車が追いかけてきました。私と並走すると、窓からビニール袋を差し出しながら、小遣いかせぎでしょうか、相変わらず10$で買うように言っています。

「いらない」と、一言キッパリ言うと、あとは無視しました。通り過ぎて行った車は、今度は交差点ごとに車を止めて、無言のプレッシャーをかけてきます。[しつこい連中だ] そう思うと同時に、安易に誘いに乗ったことを後悔しました。

これ以上関わりたくないと思い、オガラーラの町に着くと、一目散にモーテルに駆け込みました。モーテルの窓からは U.S. ハイウェイ26号線と30号線の交差点が見えます。他のカモでも探しているのでしょうか、2人の乗ったグレーのセダンが停車しているのが見えました。

念のため、翌朝は早めに出発することにしました。その夜はシャワーを浴びると、ひさびさのベッドでぐっすりと眠りました。