荷物をホステルに置いて、軽くなった自転車でナイアガラ観光の2日目。
まずは、ほとんどの観光客が乗るだろう遊覧船へ。船着き場まで下ると、待合場所のテントにはすでに30-40人ほどの先客がいます。そして桟橋には定員約百名のディーゼル船 Maid of Mist号がスタンバイしています。出航時間が近づくにつれて徐々に乗客も増えてきました。
いよいよ乗船が始まりました。各自、黒いゴムカッパをピックアップして乗り込むのですが、いざ合羽に袖を通してみると中はベトベトで、しかも何やら匂います。
「なんか、臭いんだけど、K君どう?」
「ええ、かなり匂ってます。中もぬれてますよ」
「うん。これさぁ、水しぶきだか汗だかわかんないな」
「いやぁ、気持ち悪いですよ。このカッパ」
そんな2人の気持ちに関係なく、遊覧船は桟橋の前方に見えるアメリカ滝へ向かい出航しました。カナダ滝に比べると、見た目には半分ほどのスケールですが、近づくにつれその大きさを十分に感じることができました。
遊覧船は徐々に右にかじをとると、流れに逆らいながらアメリカ滝の隣、その名も可愛いブライダルベール滝の前を通過しました。やがて、カナダ滝から落ちる激しい水の勢いに遊覧船が揺れ始めましたが、そんなことはお構いなしに、なおも滝に近づいていきます。
するといきなり大量の水しぶきが、喚声とともに全員一斉に頭からカッパのフードを被りました。臭いだのなんだの言ってる場合ではありません。滝の高さを確かめようと上を向くと、まるでシャワーを浴びているようで目を開けていられません。そんな状況を楽しむかのように、遊覧船はその場ではスピードを落として航行していました。
遊覧船の行程は30分足らずでしたが、水しぶきどもども十分に堪能できました。(現在、カナダ側から出航する遊覧船は2階建ての大きな船になり、乗船時に渡されるカッパはビニールの使い捨てになったようです)
ライトアップされたナイアガラ
夜になるのを待って、2人で再び滝へ出かけてみました。相変わらず轟音は鳴り響いていましたが、暗闇のなか7色のカクテル光線に照らされて浮かびあがるカナダ滝は、サンディが言ったとおり、ひと味違うものでした。美しさとともに神秘的なもすら感じられました。
手すりにすわると、持参したウィスキーを2人でチビリチビリ飲み始めました。私は、深夜のテレビで見た映画「ナイアガラ」を思い出していました。
確か7色に浮かぶナイアガラの滝のシーンがあったような気がしました。内容はというとマリリン・モンロー演じる妻が若い愛人と共謀して、ジョセフ・コットン演じる夫を殺そうします。しかし逆に愛人が滝の裏の洞窟で殺されてしまい、妻も国境の橋レインボーブリッジで絞殺され、その夫もボートで逃げる途中に滝に落ちてしまうという、ナイアガラの魅力満載なのです。内容はともあれ、この映画で見せたモンローウォークが評判になり、マリリンの出世作になりました。思春期の私は、彼女の魅力にドキドキしながらテレビ画面に食い入るように見ていたのを覚えています。
「Hさん。夜のナイアガラはきれいですけど、男同士で来るところじゃないですよ、カップルで来るところですよ」
「う~ん。あの7色の滝はやっぱそうだよな。K君、彼女と新婚旅行で来たら」
「Hさんこそ来たらいいですよ」
「ワッハッハ……」
ウィスキーを飲みながらの2人のたわいない会話は、その後もしばらく続きました。