朝、 Y.M.C.A. をチェックアウトする前に、近くにあるポリスステーションにK君とともに出向きました。前日の警官はいませんでしたが、対応してくれた警官に状況を説明して、英作文を読んでもらいました。(なにしろ難しい発音の単語が多いので)すると警官は、前日の報告書を取りだして目を通し始めました。
「昨日の状況はわかりました。あなたの心配もわかります。ただ、絶対に安全ですから心配はいりません。犬は鎖につないで、10日間以内に病気になったり死んだりしたら連絡しますから」
「私が知りたいのは、あの犬が飼い犬かどうか。狂犬病の予防注射は済んでいるのか。その2点なんですが」
警官は、アメリカの犬が狂犬病になる確率は百万分の1 とメモ用紙に書き、何しろ「心配するな」の一点張りでラチが明きません。そこで私は聞いてみました。
「ところで、その後、あの家の人とは連絡がとれたのでしょうか? 昨日の警官はもう一度確認してみると言っていましたけど」
「確認はとれています。報告書にちゃんと書かれています」
それを聞いてやっと納得できました。旅行中なので、こちらから10日後に連絡するから、と名刺をもらうことに。警官は裏に McMANUS と自分の名前を書いてくれました。
やっと出発です。街からハイウェイに出る途中に、昨日の家があります。通りがかりに見ると、ちょうど庭に家人と犬がいました。自転車から降りて近づく我々に気づくと、庭から中年の夫婦と思われる2人も犬と一緒に出てきました。
警官から話を聞いているようで「心配するな。この犬は安全だ」とこちらから尋ねる前に話し始めました。昨日とはうって変わって犬もおとなしく言うことを聞いています。狂犬病の予防注射のことなど尋ねて、その場を去るとK君が
「Hさん。あの夫婦、すいませんの一言もありませんでしたね」
「確かにな。日本だったらまず、申し訳ありませんから始まるだろうな」
私は、ロスアンゼルスで聞いたMさんの話を思い出していました。
「俺がロスでお世話になった人が言ってたんだけど、アメリカ人は Excuse はするけど、日本人みたいに簡単に Sorry とは言わないみたいだよ」
「そうなんですか」
「俺にも、何かあっても簡単に I’m sorry って言わないようにって」
「へぇー。訴えられたりしないためですかね。不利にでもなると思うのかな」
「かもな。アメリカは訴訟社会だって言うし、ことの良し悪しは第三者が判断するってことかな」
途中、近くの公衆電話から対応してくれた警官ミスター・マクマナスに安全が確認できたことを伝えました。
走り始めると、犬に噛まれた傷よりも転倒時の打撲の痛みが、左足にまだ残っていました。