今回からヨーロッパと北アフリカ篇に入ります。イギリス（英語表記はBritainとします）を皮切りにスペイン、ポルトガル、北アフリカへとツーリングが続きます。
ロンドンへ
[えッ、プロペラ機かよ] 驚いたことにチャーター便はプロペラ機でした。
当時、エアバスは短・中距離しか飛べませんでしたが、ボーイング社のジャンボジェットやダグラス社のDC-8などは、すでに太平洋や大西洋路線に就航していました。そんななか、大手航空会社が中小に払い下げた大型プロペラ機もチャーター便や貨物便として、まだ現役で活躍していました。
燃料タンクにスペースをとられるのか、機体の大きさに比べて座席数は30-40席と、多くはありませんが、団体客と思われる乗客で満席です。どうやら私の入手した格安チケットは団体客の空席を埋めるためのようでした。
旅客機は1時間ほど遅れて、ロンドンへ向け、ケネディ空港を飛び立ちました。飛行時間約9時間、翌日の昼ごろには到着の予定です。
[目がさめたら、ロンドンか] そんなつもりでいたのですが、思ったとおりにはなりませんでした。プロペラ機特有の音と振動が体に伝わり、慣れない私はどうにも落ち着きません。
さらに悪いことに私の座席はトイレを背にした最後尾で、その奥には客室乗務員の控え室と配膳室があります。座席の横を入れ替わり立ち替わり人が通るので、気が散ってゆっくり眠れず、結局2時間ほどウトウトしただけで、ロンドンに着いてしまいました。
ニューヨークとロンドンの時差は5時間です。ただし、アメリカのサマータイムが11月の第1週までなのに対し、イギリスは10月の最終週までなので、1週間のズレがあります。
この日、10月24日(日)でサマータイムを終了したイギリスでは時計を1時間戻し、1日が25時間になります。そこで、ガトウィック空港へ到着すると、時計の針を5時間ではなく4時間進めました。
空港からロンドン市内までは北へ40数キロ。しばらく走り、違和感を感じて（危ない危ない）イギリスは日本と同じ左側通行だと気がつきました。ロスでディズニーランドへ向かったときと同じミスです。おもしろいもので、どうやら5ヵ月のあいだにアメリカの右側通行が体に染み着いてしまったようです。
当時、ロンドン市内には5軒の ユースホステル(Y.H.)がありました。そのなかで市の中心から少し離れた Earl’s Court Y.H.を選ぶと、寝不足だったこともあり、早めにチェックインしました。
「チェックインするまでは自転車を入れちゃダメだ! 出しなさい」
門の中に自転車を入れたとたん、受付のおじさんが飛んできて注意しました。口調のわりに気のいいおじさんだとじきにわかりましたが、ルールに厳しいY.H.の一端と、何となくイギリス人気質の一面を見た気がしました。
自炊ができるY.H.でしたので、夕食の食材の買い出しに外出すると、街にはアフリカ系、インド系、アラビア系、中国系と、さまざまな国の人たちの生活する姿が見られました。当時のイギリスは移民に寛容でした。
イギリスY.H.のローカル・ルール
朝、出かけようとすると、受付のおじさんが聞いてきました。
「仕事はしたか?」
「えっ? 私は、旅行者だからイギリスでは仕事はできませんけど」
「そうじゃない。ホステルの仕事だよ」
「えっ、ホステルの仕事ですか」
「そうだよ。ここの決まりだ。君には台所の掃除をやってもらおうか」
ということで、私は台所掃除をすることになりました。もちろん、私だけでなく、ほかのホステラーも何かしら仕事をしているようでした。
それ以後、イギリスの行く先々の Y.H.ではチェックアウトする前に「何か仕事は?」と聞くことにしました。仕事の内容はトイレやドミトリー、浴室などの掃除や本棚の整理などです。
ただし、イギリスの Y.H.すべてがそうではなく、あくまでも個々の Y.H.のルールのようでした。現在、イギリスの Y.H.にこのようなルールがあるかどうかわかりません。
42,000km by bike 