毎日必ずといっていいほど降る雨と寒さで、私の気持ちは完全にスペインに向かっていました。イギリス南部の港町 Plymouth からスペイン行きのフェリーが出ていると、アンドリューから聞いていました。めざすはプリマスの港です。
それでも一杯飲む楽しみだけは止められません。リバプールの手前の小さな町のB&B、うまい具合に下がパブで私にとっては好都合です。ひとっ風呂(嬉しいことに浴槽です)浴びて、下に降りるとビールを2杯。雨の降るなか、横丁にある Fish & Chips でタラのフライ・イモ・豆・紅茶を1£で購入しました。
再びパブに戻ると、さっきまでいた二人のお客も帰ったようで、カウンターのなかにお姉さんがポツンと一人きりです。
「ビールを1杯くれる?」
「あらっ、また飲むの? さっきと同じでいい?」
「お客さんいないんだ。ヒマだね」
「雨だしね。それに小さな町だから、お客さんもそんなに多くないの。いつも私ひとりで十分」
追加した2杯目のビールを飲みながら、たわいのない会話は続きました。
「ねぇ、タバコ吸っていい?」
「ああゴメン。俺ばかり吸って、どうぞ。これ吸う?」
そう言ってマルボロを差し出すと、彼女は
「いや、これ」
と言って、自分のタバコを取り出しました。黒いボックスに、金文字の洒落たデザインです。
「カッコいいパッケージだね。何て言うタバコ?」
「John Player Special、イギリスのタバコよ」
よく見ると金文字は、その頭文字 JPS です。
「吸ってみる?」
「いいの? じゃ1本」
差し出されたタバコを吸ってみました。
「うまいなぁ、このタバコ。マルボロよりいいかも」
「おいしいでしょ。私はずっとこれ」
「それにしても、誰もお客さんが来ないね。俺一人じゃどうにもね」
「今日はもうダメかもしれないわ」
「いやぁ、話が弾むと隣のおじさんがスコッチウイスキーをおごってくれて楽しい思いもしてたから」
「そうなの。じゃあいいわ、今夜は私が1杯おごってあげる」
「おごるって? いいよ、そんなことしたら商売にならないじゃない」
「遠慮しなくていいから。何にする? スコッチ?」
「ホントに? じゃ遠慮なく。ダブルで」
「オーケー。もうお客さんも来そうにないし、私も飲んじゃおうかしら」
「おっ、いいですね。それは俺におごらせて」
「何カッコつけてんのよ。貧乏旅行のくせに」
「ハッハッハァ。たしかにその通り」
彼女はサーバーから自分の好みのビールを注ぎ始めました。
タバコは嗜好品、好みは人それぞれです。彼女が勧めてくれたJPSは、ひとことで言うと、味も香りも正統派のタバコらしいタバコです。そこが気に入った私は、その後イギリスではずっと吸っていました。
以前、ブログに書いたように、私は旅先の国のもっともポピュラーなタバコを吸うようにしていましたが、JPSを見つけると、つい浮気して吸ってしまいました。
結局、ドイツ滞在中にタバコをやめた私ですが、もし「いま、どのタバコ吸いたい?」と聞かれたら、迷わずJPSと答えます。イギリスはタバコ税が高く、当時、JPS 1箱400円以上しました。