Y.H.に戻ると、なんと世界時間も表示される目覚まし時計が盗まれていました。旅に出て物を盗まれたのは初めてのことで、少々ショックでした。
慌ててベッドの下のほかの荷物を見ましたが、さいわい無事でした。連泊するつもりの私は、ベッドを確保しておくため、ベッドの上に寝袋と一緒に目覚まし時計を置いて、市内観光へ出かけたのです。
同室のアメリカ人青年に話すと「それは君が悪い。この状況じゃ文句はいえないよ。それに目覚まし時計なんているの?」目覚まし時計がいるいらないは別にして、彼の言うとおりです。
部屋は2段ベッドが四つ置かれたドミトリーで、他に同じような部屋がいくつかあります。鍵はかかっておらず、人の出入りは自由です。明らかに私の不注意ミスでした。
翌朝、Y.H.のスタッフに目覚まし時計の盗難にあったことを伝えておきました。
二つの探しもの
この日は朝からプラド美術館へ。お目当ては美術の教科書にも載っているゴヤの「着衣のマハ」と「裸体のマハ」です。美術館の別館では前年からピカソの「ゲルニカ」が公開されているので、そちらにも寄ってみました。
スペイン内戦中の1937年にパリで描かれた「ゲルニカ」は、ピカソの独特のタッチと相まって、その大きさ縦349㎝×横777㎝以上に迫力を感じました。ゲルニカはスペイン・バスク地方の町の名で、ドイツ軍の空爆により壊滅的な被害を受けました。
午後は探しものです。マドリッドで調達しようと思っていたものが二つありました。一つはタイヤです。
北アフリカではタイヤの入手が困難でした。ポルトガルよりサイクルスポーツが盛んなスペインのほうが入手しやすいだろうと考え、少し早い気はしましたが、予備タイヤをマドリッドで調達するつもりでした。
前日市内を歩き回った時にショップの目星をつけておきました。朝出がけにタイヤをスペイン語で何と言うか、Y.H.の受付で聞いてあります。
Turista bicicleta, nuevo neumático por favor.
ツーリスタ ビシクレッタ、ヌエボ ネウマーティコ ポルファボール。
自転車旅行者、新しいタイヤをください。
スペイン語の単語を並べて、26×1-1/2・650B と書いたメモを店主に見せました。メモを見ると、店主は、Si, un momento と言って奥へ行き、しばらくすると、1本のタイヤを持って出てきました。
タイヤには 40×584 の数字、ヨーロッパの基準 ETRTO の表記があります。スペイン製でしょうか、40は少し細い気もしましたが、ビード径584はピッタリです。
店主は英語がわかるようなので、出発時に立ち寄るから、それまで預かってくれるようにお願いしました。[何だ、英語がわかるんかい !?]
次が問題でした。イギリス、スペインとずっと日本の醤油(キッコーマン)を探しているのですが、見つからないのです。
アメリカではインスタントラーメン同様に日本のキッコーマン醤油はどこのスーパーにも置いてありました。インスタントラーメンはサンヨー食品の「サッポロ一番」が、カリフォルニア工場で製造され、全米で売られていました。味はチキン、ビーフ、シュリンプの三種類。醤油味や味噌味がないのが残念でしたが。
KIKKOMAN Soy Sauce は小瓶で、当時からアメリカのウィスコンシン州の工場で製造販売しているものでした。
野宿の夕食で一番多いのは、コンロで炊いたアツアツのご飯の上に缶詰のオイルサーディンを乗せ、醤油をかけて食べるもので(卵を落とせばベスト)、醤油さえあれば、何となく日本食に近づくと思っていました。
イギリスには中国系移民もおり、中華レストランも多く、当然醤油はありましたが、日本の醤油とは違うものでした。我慢して使っていましたが、おそらく製造工程からして違うのではないでしょうか。色・香り・風味、いずれも、子どものころから慣れ親しんだ味とはほど遠いものでした。