次にエル・グレコ美術館を訪ねました。エル・グレコは人の名前だと思っていましたが、本名は別にあります。エル・グレコというのは、スペイン語でギリシャ人という意味で、ギリシャ生まれの彼が、ここトレドの街で皆から呼ばれた通称です。
マドリッドのプラド美術館で見たエル・グレコの絵は、筆のタッチと鮮やかな色使いが他の絵とは違って見え、後にピカソが影響を受けたという説明にも納得がいきました。
イタリアで絵の勉強をした後、このトレドの地に移り住んだエル・グレコは、彼が望んだ王国のお抱え絵師にはなれませんでしたが、宗教関係者に評判がよく、多くの作品の依頼を受けました。
作品に肖像画や風景画より圧倒的に宗教画が多いのは、それが理由ではないでしょうか。エル・グレコが評価されたのは、残念ながら、没後約200年たってからでした。
19世紀になって改修されたというエル・グレコの家は、トレド大聖堂から歩いて15分ほど、細い路地を少し登った先にありました。隣が彼の作品を所蔵した美術館になっています。
美術館の入り口の奥には、帽子に制服姿の男性監視員らしき人が一人椅子に座っていました。他に誰もおらず、どうやら見学者も私一人のようです。
年齢は50代でしょうか、小柄な監視員は椅子から立ち上がると、何か私に話しかけてきました。
「…?…」
「絵の説明をしましょうか?」そんな風に受け取った私は「ノー、エンティエンド、エスパニョール」(スペイン語は分かりません)と答えました。
それでも監視員は、絵を見て回る私の後を黙って、しかもピッタリと付いてきます。[何だッ、俺のことを怪しんで付いてくるのか? それにしても近すぎだろう]
事件(?)が起こったのは3番目の展示室に入った時でした。お尻に何か当たるのを感じて、振り返ると私の肩越しに微笑んだ監視員の顔がありました。
お尻をツツいたのはオッサン監視員の「ぽ×ち×」です。反射的に下を見るとズボンの上からもオッサンの股間が膨らんでいるのが分かりました。
もう絵の鑑賞どころではありません。「何だヨッ!」驚いた私は、後ずさりしながら、慌てて逃げ出しました。振り返るとオッサンはまだ微笑んでいました。
[あれは、からかってるんじゃないな。あのオッサン、変態か。一体どうなってんだ。気持ち悪りぃなぁ]
ことの一部始終をエル・グレコの宗教画だけが見ていました。