トレドを立つと、まっすぐポルトガルをめざしました。あとで知ったのですが、スペインでは11月と12月が一番雨の多い時期のようで、サンタンデールからマドリッドまでの行程は雨にたたられました。
しかし、その後は幸いなことに上天気といえないまでも雨の心配のない日が続き、徐々に深まり行く冬を感じながら、久しぶりに野宿をしながら走ることができました。
それでも、日中の気温は10度前後。ただ、地中海から吹く風のおかげでしょうか、夜は氷点下にまで下がることはありませんでした。
いつものように夕食の買い出しを終えて食料品店から出てくると、店の前に止めておいた自転車のフロントキャリアに取り付けていた懐中電灯が盗まれていました。単1乾電池4連、ハイパワーの黒い懐中電灯、私のお気に入りでした。
時として物珍しそうに寄ってくる子どもがいれば、自転車の見張りをジェスチャーで頼み、買い物を終えると、見張りのお礼にアメやガム、例の5円玉などをあげていました。
それなりに用心していたつもりでしたが、目覚まし時計に続き懐中電灯まで盗まれるとは思いませんでした。ランタンを携行していない私にとって、懐中電灯の明かりは野宿の必需品です。その明かりのもと食事をし、テントの中では翌日のルートを地図上でチェックします。
長い夜、寝転んで携帯ラジオから流れる訳のわからぬ放送を聴きながら、その明かりで文庫本を読み、横にワインのボトルを置いて、時には絵ハガキや手紙を書いていました。
残念ですが、どうやら急に買い物が一つ増えました。電気屋を探すと、フロントキャリアの取り付けバンドにピッタリはまることを最優先条件に、単1乾電池3連の緑色のプラスチック製の懐中電灯を購入しました。
ただ、この懐中電灯もこの先また盗まれてしまいます。まさか二度も盗まれるとは思いもしませんでした。