日が沈んでからW君の出店を訪ねてみました。
人通りで賑わう路地裏の壁を背にして、テーブル代わりの小さな箱を黒い布でおおい、その上に例のアクセサリーを並べて売っています。ポルトガルの人々には文字のうまいへたは分からないでしょうが、彼がロットリングで書いた文字はチョット見お世辞にもじょうずとはいえませんでした。
「どうなの、売れてるの?」
「いやぁ、ぜんぜんダメです。売れません」
「そうか、ダメなんだ。でも、なんで旅の途中でアクセサリーを売ろうと思ったの?」
「なんかおもしろそうだし、少しでも旅費の足しにでもなればと思ったんですけどね」
ヒマなW君にとってはちょうどタイミングよく話し相手が現れたようで、いろいろと話してくれました。
彼は大阪出身の25才。ノルウェーで農業研修を受けたあと、デンマーク、ドイツ、フランス、スペイン、そしてポルトガルと自転車で旅をしてきたそうです。旅費は農業研修時の手当てをプールしたもので、自転車も備品もノルウェーで揃えたとのことでした。
「Hさんは、これからどうするんですか。この先、行く国とか決まってるんですか?」
「しばらくリスボンでノンビリするつもりなんだよ。今日1日市内を回って感じたんだけど、なんかイイ感じの街だよね」
「でしょ。リスボンはイイ街ですよ。僕は彼女ができました。もちろんリスボン娘です。エッヘッヘ」
「そうか。でもW君、旅人に女はいらないよ。分かってる?」
「ええ、まあ」
「この先ねぇ。次は北アフリカへ行こうと思っているんだ。年が明けてからね」
「えっ。北アフリカですか? 実は僕も何となく行きたいなと思っていたんです。来年の4月には日本に帰るんですけど、それまで一緒に行ってもいいですかね?」
「オオッ、もちろんいいよ。一人より二人のほうが楽しいし、何より心強いよ」
正直なところ、北アフリカの資料も予備知識もない私にはそう思えました。W君に、アメリカのデトロイトで出会った日本人学生のK君と2週間一緒に走った時のようすを話しました。
「Hさん。なんかおもしろい旅になりそうですね」
「うん。ヨロシク頼むよ」
「ハイッ。僕のほうこそお願いします」
その後も、しばらくおしゃべりは続きましたが、別れ際に Y.H. のアドレスと居候先のペンションのアドレスを互いに交換しました。