「Hさん。年が明けたら北アフリカに行くって言ってましたけど、それまでどうするんですか?」
「リスボンも一通り回ったし、これからはノンビリと港で釣りでもしようかと思っているんだけどね」
「僕、実は列車でポルトに行く予定なんですけど、一緒に行きませんか?」
「ポルトって?」
「ポルトガルでリスボンにつぐ二番目に大きい街ですよ。大西洋に面した古い街で、ポルトガルの国名の由来にもなっているんです」
「へえー。そうなんだ」
「Hさん、お酒好きでしょ。ポルトには世界的に有名なポルト・ワインのワイナリーがあって試飲させてくれるんです」
「L君、それって工場見学の後にタダでお酒が飲めるってヤツ?」
「そうです。僕はあした出発するつもりなんですけど」
「オーケー。決まった。一緒に行くよ」
L君は、3-4日したら戻るという約束で荷物の保管を Y.H.のスタッフにお願いしてくれました。持っていくのは財布とカメラと着替えだけという身軽な旅のうえに、L君というポルトガル語の通訳者(?)付き、しかも初めての列車での移動、何だか楽しくなりそうな気がしてきました。
1982年12月29日。日本であれば、何かとあわただしい年の瀬ですが、リスボンの街はいつもと変わらないようすでした。いや、むしろクリスマスのイベントも終え、静かに落ち着いてしまったように感じられました。
列車はさほどスピードをあげることなく、田園風景の続くなかをポルトへ向けて走っていました。日本の人には年賀状の、旅先で世話になった人には New Year Card の代わりにと思い、車内で絵ハガキを書いていました。先ほどまで車窓越しに外の風景を眺めていたL君は、いつのまにかウトウトし始めていました。
リスボンを発って約5時間(現在は3時間ほど)、列車はポルトの街の東はずれにある駅に到着しました。泊まる予定の Y.H.は、ちょうど街の反対側、市内を流れるドウロ川の河口近く、大西洋にほど近いところにありました。