[ Y.H.での自炊の晩飯もアキたよな。たまには外で食べるか] 外食がしたくなった私は、自転車をとばして、急いで Y.H.に戻りました。
シャワーを浴び、着替えをすますと 、Y.H.のすぐ近くの駅から地下鉄を乗り継ぎ、アルファマに向かいました。アルファマにはレストランもたくさんありますが、私のお目当ては安くて、おいしい路地裏の食堂です。
いつものように、道端にはイワシなどの魚、肉、野菜や果物など、食材を売る出店がたくさん並んでいます。晩ごはん用の買い物をする人びとで狭い路地はゴッタ返していました。
おなかが減っていた私は、魚を焼く臭いに誘われて一軒の食堂に入りました。店のランク付けのフォークもなければ、看板すら下がっていません。店内では他のお客の視線を感じましたが、そんなことにはいつしか慣れていました。
店のオヤジさんが差し出した手書きのメニューには料理名が10品ほど並んでいて、線が引いてあるものは売り切れのようです。ありがたいことに、値段はすべて均一の145エスクード(400円弱)でした。
ただ、手書きのメニューは難解で私にはわかりません。[さて、どうするか。人の食べている料理を指差すか? 食べたいのは焼き魚だ。注文してみるか]
Peixe grelhado, Vinho, Pão. Por favor. [ベイシュ グレリャード、ビーニョ、パン。ポル ファボール](焼き魚にワインとパンをください)
Sim, água? [シン、アグア?](はい、水は?)
Não, quero.[ナン、キエロ](いいえ、いりません)
出てきた料理は大ぶりな焼きアジ2匹とゆでたじゃがいもと野菜。ワインとパンが30エスクード、合計175エスクード(500円弱)でした。ポルトガルではスペインと違い、ワインとパンは別料金が一般的です。
食堂で一番手っ取り早いのが他人の食べている料理を指差して注文する方法(?)です。さされたお客も、嫌な顔をせずに「おいしいよ」(スペイン語 rico、ポルトガル語 bom)と言ってくれます。たまに想像した味と違う場合もありますが、またそれも楽しさの一つでしょう。
ポルトガルはヨーロッパで一番のお米の消費国です。よく、ポルトガル料理は日本人の口に合うといわれますが、確かにそんな気がします。
なかでも私のお気に入りは Arroz de Marisco [アロース デ マリスコ] という魚貝の出汁がしっかりきいたリゾットでした。優しい味とやわらかいお米の口あたりが相まって、とてもおいしく感じました。
えっ、お金払うの? 水だよ
昭和20年代生まれの私は、水を買って飲んだ経験がありませんでした。
アメリカのスーパーやコンビニで水を売っているのに驚き、スペインやポルトガルの食堂で水の代金請求に驚き、しかも炭酸水 água com gas か、炭酸なし água sem gas か聞かれ、また驚きました。
日本の水道水がいかにおいしく安全であるか、外国で思い知らされました。現在では自動販売機で水を買うのにも抵抗ありませんが、当時の海外の〈水事情〉には、いろいろと驚かされました。
おなかが満たされ、店の外へ出ると、あたりはすでに暗くなっていました。