レストランでの暮れの忘年会を最後にW君とは会っていませんでした。
年が明けてからアクセサリーの店を出しているようすはありません。彼とは1週間ほど会っていませんが、そろそろ北アフリカ行きの話を進めなければいけないと思っていました。
私にとってリスボンはとても居心地のいい街でした。だからこそ早く出発しなければ、そんな気持ちが心の底にあったような気がします。
この日は港での釣りを早めに切り上げ、W君の居候先のペンションを訪ねてみました。
<社長>と呼ばれる日本人露店商グループのまとめ役にペンションの前で偶然に会いました。30代後半の社長とは何度か食事をしたことがあり、顔見知りでした。
「あっ、社長さん、こんにちは。W君いますかね?」
「W君? 彼、きのうは彼女の所で、帰ってないようだよ」
「そうですか。いゃあ、そろそろアフリカに行く話を具体的にしようと思って来たんですけど。そうか、彼女のところか」
「そうだよね。二人で一緒にアフリカに行くって言ってたね」
「社長さん、申しわけないんですけど、彼にこのメモを渡してもらえますか?」
「ああ、いいよ。必ず渡しとくよ」
「じゃ、お願いします」
「H君、アフリカ気をつけてね」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、失礼します」
私はW君に会えないことも想定して、ペンションにいる誰かに渡してもらうつもりで、あらかじめメモを用意していました。メモの中身は、
「アフリカ行きの打ち合わせをしようと思うので連絡してください。昼間は港で釣りをしています。朝晩はユースにいます」
彼からの連絡を待つことにしました。
W君とは昨年末、私がポルトへ行くまで食事したりお酒を飲んだり、一緒に過ごす機会がよくありました。
私から彼女との出会いやなれそめを聞くことはありませんでしたが、彼はノロケ混じりでよく話していました。しかし、彼女に会ったことのない私の記憶に残ったのは別の側面でした。