ノンビリと釣りをしていましたが、ビザ取得の準備だけは進めていました。
当初、モロッコからアルジェリア、チュニジア、リビアそしてエジプトまで走るつもりでいました。ただ、どの国でビザが必要なのか予備知識のない私には、まったくわかりません。
一番の不安材料は、当時カダフィ独裁政権下にあったリビアです。入国できるのかすらもわかりませんでした。
情報収集のため、正月休み明けにリスボンの日本大使館を訪ねることにしました。外務省の出先機関である日本大使館は、日本の祝日と現地の祝日と両方休むようです。窓口担当者は親切に教えてくれました。
ビザの必要な国はアルジェリアとエジプトでした。モロッコとチュニジアは必要ないとのことです。問題のリビアですが、「正確なことは言えないので、隣国のチュニジアの日本大使館で聞いてください」とのことでした。
次に教えてもらったリスボン市内のアルジェリア大使館を訪ね、ビザの発給について訪ねると「ここでも発給できるが、アルジェリアとの国境に近いモロッコの Oujda(ウジダ)という街で申請すれば速くて簡単だ」ということでした。
W君の答え
W君が Y.H.を訪ねてきたのは、私が彼のペンションを訪ねた4日後の夜でした。彼に別段変わったようすは見られませんでした。
「Hさん、今晩は。お久しぶりです」
「おおっ、元気そうじゃん」
「はい、そろそろ出発しましょうか」
意外にも彼の方から言い出してきました。
「W君、彼女の方はいいの?」
「ええ、大丈夫です。Hさん、旅人に女はいらないって言ったじゃないですか」
「ああ、あれか。あれは冗談だけど。で、いつ出発する?」
「僕は、いつでもいいですけど」
「じゃ、早く行くか。あした一日準備して、あさっての朝出発しようか。それでいい?」
「はい、いいですよ。どこで待ち合わせますか」
「待ち合わせ場所か。そうだなぁ。W君、港のそばのコメルシオ広場知ってるよな。広場のそばに郵便局があるだろ」
「ええ、わかります。郵便局で何時にしましょうか」
「何時にしようか? 俺は何時でもいいよ」
「じゃ、8時にしましょう」
「おっ、早いね、いいよ O.K. 朝8時郵便局のとこな。遅れるなよ」
「大丈夫です」
彼女のことは、最初から細かく聞くつもりはありませんでした。結論が出れば、それで十分だと思っていました。この先ニ人で一緒に走れば時間はたっぷりあるはずですから、W君の方から話したくなれば話してくると思っていました。
リスボンっ子がよくやる挨拶があります。握手をして Olá(こんにちは)、そして肩をたたいて Tchau(さようなら)。私には特別に旅の準備はありませんでしたが、翌日バル少年と顔見知りのウェイターに「さよなら」を言いに行くつもりでした。