夕闇が迫るなかセビリアに到着。まずは宿探しですが、暗くなる前に安宿のあるエリアを聞いたほうが早いと思いました。
「Dónde barato hostal ?」(安い宿はどこ?)
スペイン・ポルトガルの滞在も2ヵ月、なんとか単語だけは並べて意思を伝えられるようになっていました。
教えてもらった安宿は川を渡ったサンタ・クルス街、どうやらセビリアの旧市街地のようです。そこには Hostal だけではなく、CやFのアルファベットだけの安宿の看板がありました。Cは Cama(カーマ=ベッド)、Fは Fonda(フォンダ=旅館)の意味です。
リスボンに戻りたいんですけど
この日は、朝からW君と自転車でセビリアの街を観光の下見で一巡り。前日は気が付きませんでしたが、街で見かけるオレンジの街路樹には実がなっており、柑橘系の爽やかな香りが漂っていました。オレンジの木はアラブ人がイベリア半島に持ち込んだそうです。
安宿のあるサンタ・クルス街は旧ユダヤ人街、多くの観光スポットはその近くにありました。その夜、ベッドに横になっている私に、W君が突然切り出しました。
「あの~。Hさん、リスボンへ戻りたいんですけど」
「えっ、何? リスボンに戻りたいの?」
私は驚いで起き上がりましたが、すぐに察しが着きました。
「シャナか?」
「はい。シャナに会いたいんです、もう一度だけ」
思い詰めたようすもなく、その言葉にはしっかりとしていました。
「そうかァ。いいよ、会いに行けよ。それでこの先、アフリカ行きはどうすんの?」
「帰ってきてまた続けます。2-3日で必ず戻りますから」
「オーケー、わかった。2-3日じゃなくてもいいよ。1週間待ってるよ。その間、俺はゆっくりセビリア観光でもしてるから。もし1週間して戻って来なかったら、その時は一人でアフリカに向けて出発するから、それでイイ?」
「ハイ。すいません。必ず戻りますから」
翌朝、W君はゴムぞうりにサコッシュひとつを肩から下げて列車でリスボンへ向かいました。
「腫れ物に触らず」ではありませんが、今まで二人ともあえてシャナの話しは避けてたのかもしれません。一昨日、買い出しの後に彼が急に怒り出したのも、これまで何かモヤモヤ・イライラが溜まっていたのだろうと、あらためて思いました。