翌日にはアフリカの Morocco(モロッコ)に渡るつもりです。アルヘシラスの街に着くと、さっそく港のフェリー乗り場へ下見に。モロッコの Tangier(タンジール)行、スペイン領 Ceuta(セウタ)行とも、数多くあり問題はなさそうです。
港からジブラルタル湾をはさんで8キロ東の対岸にイギリス領ジブラルタルの港が見えました。正確にいうと南北5キロ、東西1.2キロの小さな半島に、難攻不落の港の象徴〈ザ・ロック〉といわれる小高い山が見えていました。
ジブラルタルは元々はスペインの領土で、返還を望むスペインにとっては悩みの種です。
18世紀の初頭、スペイン・フランスに対してイギリス・オランダ・オーストリアの三国が宣戦布告をして〈スペイン王位継承戦争〉が始まります。その後、海からの上陸に成功したイギリス軍側はこの地を占領します。そしてユトレヒト条約によりイギリスはスペインからジブラルタルを割譲しました。
ジブラルタルは地中海の出入り口に突き出した小さな半島ですが、当時は戦略的に需要な場所でした。三百年以上たった今でもイギリスの軍港として機能しています。
スペインは国連を通じてイギリスに返還するよう何度も求めていますが、話は一向に進みません。ことしになってイギリスが EUを離脱したことによりスペインの新たな動きが注目されます。
一方で、スペインはモロッコからスペイン領セウタの返還を求められていますが、これまたイギリスと同じく応じるつもりはないようです。
港の近くに宿をとると、W君と二人で晩飯に出ました。
「ハッシッシ(大麻樹脂)あるよ」
「ハッシッシあるよ」………
見るからに旅行者の私達二人は何人もの大麻売りに声をかけられました。酒を飲まないイスラム圏では、代わりに大麻を用いると聞きます。いかにもアフリカへの玄関口の港町らしい雰囲気を感じました。
私たちはこれといったアフリカ行きの準備はしませんでしたが、ただイスラム圏の酒の入手の難しさを考えてワインを2本買い、1本づつお互いのサイドバッグにしのばせることにしました。
…………
スペイン、ポルトガル両国ともに物価が安いということもあり、ノンビリと自転車旅行を続けられました。
「スペインとポルトガルって、やっぱり違うの?」と、聞かれることがあります。ともに〈陽気さ〉と〈素朴さ〉を持ち合わせていますが、それが両極端に振れているように感じます。そのバランスがコントラストになり国民性に見え隠れして、30年以上経ったいまでも両国ともに印象深く思い出されます。
…………
次回からはW君と二人の北アフリカの旅が始まりますが、地図だけがたよりです。異文化のイスラム圏は、やはり驚くことばかりでした。