朝目がさめると、昨夜の沿岸警備兵二人はポイントを移ったようで、その姿はありませんでした。
海岸線をタンジールに向かう途中、何度か警察官のパスポート・チェックを受けました。外国人に対しては当たり前なのか、それとも自転車に乗った怪しい東洋人とでも思われたのか、その後も幾度となく警察官のチェックがありました。
アメリカやヨーロッパで経験のないことで少々驚きです。警察官のチェックは北アフリカの他の国でも同じように受けましたが、いつの間にか「またかよ!?」という感じで慣れてしまいました。
金曜日が休日というのはイスラム圏では理解できますが、タンジールのツーリスト・インフォメーションは土曜日だというのに閉まっていました。おそらくはシーズンオフだからだと思われます。
宿を探し、チェックインを済ますと、W君と二人でタンジールの旧市街 Medina(メディナ)をブラつくことに。イスラム独特の音楽がどこからともなく聞こえてきます。
人で溢れる入り組んだ路地には肉屋、洋服屋、カフェ、土産物屋……生鮮品を並べている露店を含め、あらゆる種類のお店が並んでいます。さしずめ賑わう下町の商店街といったところでしょうか。
「ジャポネ?」「チーノ?」
「カラテ!」「カンフー!」
「ガイドは? ガイドはいらないか?」
店をひやかしながら歩いていると、いたるところで若者や子どもたちから同じような声がかかります。時折、日本語で話しかけてくる若者もいます。
「連中、何か人なつっこいですね。スペインみたいですよ」
「いやW君、スペイン以上だよ。人なつっこ過ぎるよ」
「確かに、やかましいかも。ガイドの売り込みは小遣い稼ぎですかね」
「どうだろう。他に仕事がないのかもな」
メディナ市内を300-400m、いやもう少し歩いたでしょうか、さらにその先に続く坂道を登っていくと、昔の宮殿跡 Casbah(カスバ)へとつながっていました。登りきった丘の上からは地中海が望め、天気がよければスペインが見えるはずです。
「チェンジ・マネー?」
「ハッシッシー?」
宿への帰り道でも相変わらず声がかかります。私たちは、いささかタンジールの騒々しさに閉口し、早々に翌日出発することを決めると、今後のコースについて相談しました。
私は、ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマン主演の戦前の(日本公開は戦後)名画〈カサブランカ〉の印象が強く残っていて、映画の舞台カサブランカに行ってみたかったのですが(実際のロケ地ではありません)、ここはW君のスケジュールを優先して、次の目的地は古都 Fès(フェズ)に決めました。フェズから東に進めばウジダの街、アルジェリアは目の前になります。