洗濯や荷物の整理など宿で一日ノンビリ過ごした翌日、迷宮都市と呼ばれるフェズの街の散策に出かけました。前夜からの雨は上がっていましたが、気温はかなり下がっているようです。
「フェズのメディナはタンジールより一回り大きいですね」
「こりゃ一回りどこじゃない、もっとだよ。かなり大きそうだ」
「気ままに歩いてると、迷子になりそうですね」
「うん。宿の他にもどっか場所をチェックしといた方がいいね」
そんな会話をしながら歩いていると、たびたび声がかかります。
「ガイドをするよ。どう?」
「ノー・サンキュー」
無視して歩いていると、しばらくして私たちの前に二人組の自称ガイドが表れました。今度の連中はかなりしつこそうです。
年上の一人は30過ぎでしょうか、作業衣のような上着に青い正ちゃん帽、足には地下タビのようなピッチリとした長靴をはいています。もう一人は、ライトブルーの防寒着を着た、16-17才に見える少年です。さしずめアシスタントといったところでしょうか。
「俺たちは貧乏旅行者だから、ガイドに払う金なんかないよ」
「わかった。だったらいくらでもいいよ。おもしろいところを案内するから」
年上の一人がしつこく言ってきます。
「だから、ガイドはいらないんだって」
「そう言うなよ。いくらでもいいから」
「ほっといてくれよ」
再び歩き出した私たちになおも付きまとい、
「チップでいいからさ」
「ノー、サンキュー」
やり取りはさらに続きました。