次に向かったのは織物工場。ジュータンやタペストリーが並ぶ店内を横目に、裏手の工場に通されました。電球がともるなか、15-6人ほどの女工さんが、なごやかにおしゃべりしながら仕事しています。お年寄りはいませんが年齢はバラバラ、なかには10才に届くかどうかの女の子もいます。
大きなジュータンは横に数人ならんで織り上げていくそうです。1ヵ月織り込んでもわずか10㎝程度、そんなジュータンもあるそうです。本物のジュータンが高価な理由が少しわかりましたが、一方で彼女たちのあまりにも安い賃金に驚きました。
一番にぎやかな女工さんに写真をお願いすると、みんなで陽気にポーズを取ってくれました。そんな彼女たちのしぐさが私をホットさせてくれたことを、いまも鮮明に覚えています。
最後に狭い階段を上がり、工場の屋上に連れて行かれました。そこからは、雨上がりの空のもと、周囲を丘に囲まれたフェズの街が一望できます。
ガイドは自分の正ちゃん帽を無理やり私にかぶせると「記念撮影だ」と言ってカメラのシャッターを。〔意外にお茶目なヤツかも〕
下に降りると、待ちかねていた店員が商品説明を始めました。申し訳なくも、何も買う気のない私たちは「ソーリー、ネクストタイム」と足早に退散することに。店の外には、ガイド二人が待っています。
「どうだった。案内は?」
「うん。よかったよ。シュクラン(ありがとう)」
「W君。どう、ガイド代を少し払ったら?」
「いや、クセになるから払いません」
最後はW君の出番です。
「ガイド代は、約束どおりいらないんだよね」
「ああ、いらないよ。言ったとおりだ」
珍しいことかと思いますが、彼らは少しもガイド代を催促しませんでした。受け取ったのは、私が差し出したモロッコのタバコ、リアウ1箱(約150円)のみ。握手しながら、マアッサラーマ(さようなら)。「悪いことをしたかな」。別れたあと、正直そんな気持ちがしました。