タザの街を過ぎたあたりから、周囲の景色が一変しました。標高500m、アトラス山脈の裾野に広がる高原は草木の生えない乾いた大地に変化していました。
舗装された国道も行き交う車の数がメッキリ減りました。国道につかず離れず並行するかたちで首都 Rabat(ラバト)からフェズ、ウジダそしてアルジェリア側へ鉄道が走っています。日に一、二度と国道と線路は交差していました。
「Hさ~ん。全然車が来ませんね。僕らだけですよ」
「あ~っ。大地を独り占め、いや俺達で二人占めだ」
「Hさん、テープでも聞きましょうか」
「一緒に歌うか?」
私の携帯ラジオは、安物の電池の液漏れのせいで使い物にならず、日本に送り返していました。ただW君が日本から持ってきたカセットテープがありました。こんなときこそ音楽といわんばかりに、そのテープを掛けることにしました。
♪♪「順子 君の名を呼べば 僕は切ないよ……
そして、もう一曲
♪♪「Sachiko 思い通りに Sachiko 生きてごらん……
当時流行っていた<順子>と<SACHIKO>です。W君が農業研修にたつ前に日本で録音してきた長渕剛とばんばひろふみの曲です。この時の二人は、誰もいないのをいいことに調子にのって大声で歌っていました。
荒涼とした景色の中を走ること3日。ウジダの街の手前まで乾いた大地は続いていました。