バスターミナルに行く前に、KさんとYさんにお礼の挨拶に寄ることにしました。あいにくKさんは朝早くから仕事に出ていましたので、Yさんにお礼を伝えてくれるようお願いしました。
ウジダの街で彼ら二人と出会い、いろいろな話を聞かせてもらい、その上、現地のモロッコ人とも会食できたことは貴重な体験でした。
出発を待つ多くのバスと多くの人でバスターミナルはごった返していました。
フィギ行きのバスの乗車料金1,200円+別に自転車代200円。
若い従業員二人でお客の大きな荷物をバスの屋根に積み上げています。自転車は最後になりました。私たち二人で持ち上げた自転車を屋根の上から従業員二人がかりで引っ張りあげる、そんなようすを子どもたちが興味深げに見ています。
自転車は横積み、あえてサイドバッグを外さずにクッション代わりにしました。ロープで自転車を固定したのを見届けて、W君とバスに乗り込みました。手荷物は貴重品とバスに乗る前に買ったホブス(パン)と水だけです。
車内に立っている乗客はいませんが、座席は埋まっています。ほぼ満員の状態でフィギの町まで7時間のバスの旅が始まりました。
スピードもそこそこに、舗装された道をバスは順調に距離をかせいでいきます。フィギから南へ約80キロ、Ain-Beni-Mathar(アイン・ベニマタル)の町を過ぎたあたりから周囲に赤茶けた大地が広がってきました。
「W君、何かそれっぽくなってきたよ。だんだん砂漠に近づいてるんだよ」
「そうですね。ポツンポツンと灌木が群生してるだけで、緑もだいぶ減ってきましたね」
「Yさんがフィギは砂漠の町だとか言ってたじゃない。俺さ、あの時『砂漠か、見てみたいなぁ』って思っていたんだよ。そしたらウジダからアルジェリアに入れないってわかって、結局フィギから行くことになったけど、良かったなと思っているんだ」
「砂漠を見たいって僕も一緒です。ウジダから行けなくて正解ですよ。でもHさん、サソリには気をつけないと」
「ワッハッハッ、サソリか。サソリの話はよそうよ」
やがて、道路の左側に線路が見えてきました。赤茶けた大地を道路と線路が100キロ以上並行して走っていたはずですが、列車と一度すれ違っただけで、集落がないせいか、駅はほとんど見かけませんでした。
いつの間にか離れていった線路が、終着駅ブアルファの手前で道路を横切りました。想像していたアップダウンもそれほどなく、バスは予定通りの時間にブアルファの町へ到着しました。
どうやら、この町が最後の休憩ポイントのようです。この分なら予定通り5時にはフィギの町へ着きそうです。