W君と一緒に外で一服してバスに戻ると、乗客は私達を含めて10人ほどに減っていました。国境の町フィギまでは残り100キロ強、もう行程の3分の1を切っています。
乾いた大地を1本の道だけが続いています。標高1,500か2,000mあるでしょうか、遠く左手前方に少しばかりの山並みが見えました。裸の山並みは沈み行く夕日に照らされながら少しずつ、少しずつ近づいてきました。
W君は若者と何やら話をしています。
「フィギって小さい町みたいですから、ホテルがあるか聞いたんですよ。これから野宿じゃ、ほらサソリがね」
「ハッハッハッ。また始まった。サソリはもういいから。で、ホテルは?」
「ホテル・サハラっていうホテルがあるそうです」
「おおっ。ホテル・サハラか、いい名前だね。そこにしようよ。ついでにサソリのことも聞いたら?」
私は冗談で言ったつもりですが、W君は再び若者に聞きに行きました。サソリはフランス語も英語も同じ発音の「スコルピオン」、わかってもらえるはずです。
「Hさん、町にサソリなんかいないって言ってました。砂漠にもいないみたいですよ」
「そう。良かったじゃないか。あんまり心配するのはよすか」
終点フィギに到着です。あたりはもう暗くなり始めています。
自転車を下ろすのは3人で事足りました。始発のバスターミナルから自転車を引き上げてくれた従業員のうち一人が車掌として乗っていました。荷物のトラブルを避ける意味合いもありそうです。その彼がバスの屋根から下ろす自転車を私達二人が下で待ち構えて受け取りました。
W君が車内で色々聞いてた若者に、今度はホテルの場所を聞いているようです。教えられた方向に進んで行くと尋ねるまもなく、すぐにホテル・サハラが見えてきました。
予想を裏切って〈ホテル・サハラ〉は完全に名前負けしていました。お世辞にも綺麗といえない、どうにもきたない宿でした。
救いは、二人一部屋1泊=960円と安かったことです。〔私達にはこれがベストかも〕
きたない宿は我慢できます。それよりも翌日のアルジェリア入国への期待と、「砂漠が見られる」そんなワクワクした気持ちのほうが強かった記憶があります。