二人の運転手は荷物の運搬を終え、カフェで一服したあとこれからオランヘ戻るところだったようです。トラックの荷台に自転車ともども二人乗り込んでヒッチハイクとなりました。
ラクダの放牧
気のいい運転手達のお陰で、150キロをトラックでの移動です。町を出てすぐの国道沿いから私達の目に飛び込んできたのは、
「おっ、ラクダがいるぞーッ!」
「あっ、ほんとだ、ラクダだ。2~30頭はいるんじゃないですか」
「W君、あのラクダはもしかしたら食用に放牧してるのかもな」
「ああ~、そういえばモロッコで一緒に昼飯を食べた人が言ってましたね。ラクダを食用にするって」
「ラクダの肉は美味いって言ってたな」
「Hさん、今度チャンスがあったら食べてみませんか?」
「えっ、ラクダの肉? 俺は遠慮しとくよ。W君、食べてみたら」
「ええ、一度トライしてみます」
ウジダでモロッコの人と会食した時に、イスラムではコーランの教えで不浄とされる豚は食べないが、ラクダの肉はよく食べると聞いていました。彼らの話ではラクダの肉は牛肉より安く、味も結構イケルそうで、ラクダのミルクで作るチーズは珍品ということでした。
重なるワイオミングの風景
砂地が続く中、トラックは国道をかなりのスピードで走って行きます。天気が良いとはいえまだ2月の下旬で風は冷たく、私達は引っ張り出した寝袋にくるまると運転席を風よけにして座っていました。やがて進行方向の右手に砂丘が広がってきました。
私は走り行く周囲の風景をアメリカのワイオミングの風景と重ね合わせ、当時のことを思い出してW君に話していました。
「ワイオミングでの話だけど、昼飯を食べたカフェから次の街まで60マイルあるんだ。でも、こんな感じで周りに何もないんだよ。結局夜になっても街にたどり着けなくて、フリーウェイの下で野宿だよ」
「あと街までどのぐらいの距離だったんですか?」
「20マイルぐらいだったかな。水も2リットル以上用意したけど、気温30度オーバーでとにかく暑いから、走っては飲み、走っては飲みだよ」
「それで足りたんですか?」
「ボトル1本だけ残してギブアップ、夜9時まで走ったんだけどね。限界だった」
「夜走るのも危険でしょう? フリーウェイじゃ、車がスピード出してるし」
「うん。道は一本しかないしね。夜明けとともに走り出して街に着いたらすぐマックに飛び込んだんだ。トイレで用を足し、顔を洗い、歯を磨いて、髭も剃ったかもしれない。それから朝飯だった。ハンバーガーとオレンジジュース美味かったなぁ。あっ、あとスクランブルエッグも」
「じゃあ、マックはまさにオアシスじゃないですか」
「そういうこと。ところで、さっきからずっと走ってるけど、この街道沿いもやっぱ何にもないよ。これさ、ヒッチハイクは正解だったかも知れないな」