英語の先生の話では、アインセフラは19世紀後半にフランス軍が造った町で、サハラ砂漠の玄関口と呼ばれているそうです。
町は近年変わりつつあるようで、街道沿いには大きくて真新しいガソリンスタンドが建ち、他にも新しい建物が建設中です。
この先は国道6号線を北上して地中海沿岸をめざします。ひとたび町を出ると、再び赤茶けた大地が広がり、左右に2千m級の山々が見え始めました。
生きたニワトリはダメだ
そんな中、街道沿いで昼飯を食べていると、馬に乗った少年がやってきました。かたわらに置かれたオレンジを馬上から指さして何か言っています。
「……??……」
「これ? このオレンジ?」
「……??……」
少年の話す言葉はアラビア語、まったくわかりません。W君が日本語でやり取りしています。どうやら朝、市場でもらったオレンジが欲しいようです。
「どうします? あげますか?」
「もらい物だし、半分あげたら」
W君がオレンジを手渡すと、少年が再び何か言っています。
「……ディック? ディック!」
「ディックって何? えっ、だからディックって何?」
ジェスチャーと鳴きマネで、アラビア語のディックがニワトリだと判明したのは、しばらくしてからです。どうやら「ニワトリをいらないか?」と聞いているようです。
食べたかったのか、W君がウイと返事をすると、すぐさま少年は馬を駆って行きました。
「Hさん、アイツ鶏肉を持って来るんですかね?」
「どうかな。あまり期待しないほうがいいんじゃない。持ってくればラッキーだな」
昼飯を終えて出発しようとしていると、蹄の音が。少年が戻ってきたのです。何と馬の鞍の上で足を紐で繋がれた一羽のニワトリが暴れています。
「おいっ、生きたニワトリだよ。まいったな」
「ノン、ノン。生きてるのはダメだ」
「……ディック、ノン?」
「ごめん、ごめん。生きたニワトリはダメだ」
さすがに生きたニワトリは持ち運べませんし、さりとて私たちはサバくこともできません。せっかくですが、少年にニワトリを持ち帰ってもらいました。残念にも、もらったオレンジが生きたニワトリに化けそこなったわけです。それでも何だかアルジェリアが好きになりそうです。