国道沿いには民家もなく、単調なアップ・ダウンが続いています。こんな時は刺激を求めて(?)二人だけのレースが始まります。
「Hさん、あそこの峠まで登ったら昼飯にしませんか?」
「昼飯か、いいよ。よしっ、いっちょう上まで競走するか?」
「いいですよ。やりましょう!」
「いいか、せ~のっ、ゴーッ!」
W君に遅れて峠に着いたものの私は息もたえだえ、調子にのり過ぎたようで、しばらく昼飯どころではありませんでした。
峠からはほぼ直線の長い下りが見えています。昼飯をすますと、二人ともまたその気に、
「こんなに長い下りはそうそうないよ。しかも直線だし」
「車もこないし、下りもやりましょう」
「いいよ、じゃ行くよ」
「ゴーッ!」
下りは、いわばノン・ブレーキのチキンレース。ブレーキをかけた方が負けてしまいます。スピードはどんどん増し、自転車は小刻みに振動し、スピードメーターは時速60キロを超しています。互いにつまらぬ意地の張り合いが続きます。
「ワーッ!」
「ウォーーッ!!」
恐怖心を打ち消すためか、思わず大声が出てしまいます。馬鹿げたレースの結果はほぼ同着でした。
また懐中電灯を盗まれる
この日の最後はダラダラと続く登り坂を走り、テル・アトラス山脈の麓の町 Saida(サイーダ)へ。時刻はすでに5時半、あわてて買い出しに。何とその間に(二人とも店内に入り、自転車から目を離したのです)、スペインに次いでまた自転車用の懐中電灯を盗まれてしまいました。
盗まれるほうが悪いとでも思っているのか、おそらく悪ガキの仕業だと思われます。アルジェリアの人には親切にしてもらっていただけに、なおさらのことショックでした。
自転車の固定バンドに合う懐中電灯を探すのも面倒に感じ、しばらくはW君のライトとロウソクの灯りで夜を過ごすことにしました。