前日から強い向かい風が吹き抜けていますが、冷たくない分まだ救われていました。あしたからは登り、風がやんで欲しいものです。この日は、国道4号線を少し外れた川岸にテントを張ることに。すぐ近くには村もあります。
「W君、ちょっと見てよ。きれいな川の水だよ。洗濯するか?」
「ホントだ。しましょう、しましょう。だいぶ洗濯物も溜まっているし」
私たちにはホテルでノンビリするのはもちろん、もう一つ洗濯をするという大事な仕事があります。ところがマスカラのホテルには風呂がなく、おまけに水の出が悪く、洗濯どころではありませんでした。やむなく、ハマム(公衆浴場)で周りの目を気にしながら下着だけ洗濯していたのです。
「Hさん、日が暮れる前に洗濯しちゃいましょうよ」
「そうだな、あしたは天気はよさそうだし、晩飯の仕度は洗濯の後にしよう」
水場が近いと米とぎはもちろん、食器類の洗浄、洗顔・歯磨き、体の清拭と何かと便利です。
就寝前、テントの中で「せっかく目の前に川があるんだし、明日の朝は洗濯物が乾くまで、久しぶりに釣りでもするか?」そんなことを考えていました。
川の水質検査
朝飯の仕度の最中、突然多くの人がやって来てテントの周りがにわかに騒がしくなりました。総勢20人以上、どうやら川の水質検査のようです。小さなポリ容器で数本のサンプルを採取して全員引き上げていくと、再び何事もなかったかのように静けさが戻りました。〔まさか、何かに汚染された川なのか?〕
当時のアルジェリアはモロッコと同様、まだ上下水道は十分に整っていませんでした。それは都会から離れるほど顕著で、生活排水はほぼ川に垂れ流しの状況です。道路脇に掘られたままの側溝の流れはよどみ、黒い油が浮いてドブと化している、時には排水が溢れだして道をふさいでいる、そんな光景を見てきました。
「洗濯物が乾くまで、釣りしてていいかな?」
「どうぞ。僕は一服しながらお茶飲んでますから」
取り出したのは愛用のコンパクトな釣竿とリール。釣りをするのはリスボンのテージョ川以来のことで、久しぶりになります。餌は切り刻んだソーセージとホブス。
釣ること2時間、日本でいうモロコのような魚が釣れましたが、体長は10センチほど、佃煮ならともかく煮るにも焼くにも、どうにもサイズがイマイチでした。
洗濯物が乾いて出発をしたのは11時を過ぎてから、きのうの強い風はやんでいました。