たき火の煙の先、小高い丘の上に珍しいことに立派な教会がそびえ立っているのが見えました。聖アウグスティヌス教会(アンナバ大聖堂)です。
アンナバ近郊の内陸部で生まれたキリスト教の学者であり聖人であったアウグスティヌスに因んで、1900年にフランスが建てた教会です。教会の麓にはアウグスティヌスが暮らしていたであろうローマ時代の建物の廃墟が見えています。[廃墟っていうか、遺跡っていうか、あんなところでたき火して大丈夫なの]
私が珍しく思ったのにはもちろん理由があります。地中海に近い北部アルジェリアを走行中に見かけたキリスト教会は、全て朽ち落ちて荒れ放題だったからです。隣接する墓地も草はボウボウ、十字架は転がっているなど、手入れされている気配は少しもありません。
そんな荒れ放題の墓地で一度だけ、一人で花を手向ける白人の老婦人を目にしたことがあります。どこから墓参りに来たのでしょうか、アルジェリアが独立する以前に家族の誰かがこの地で亡くなられたのでしょうか。
アンナバの街から国道44線に出る道がわからなくなってしまいました。W君が通りがかりの青年に声をかけています。
「エルカラ、エルカラ。フォティフォー」
ところが青年は、しゃべれないジェスチャーをしています。言葉は不自由ですが、耳は聴こえるようです。彼はニコッと笑って軽くうなずくと、手招きをしながら先導し始めました。どうやら国道まで案内をしてくれるようです。
歩いて15分ほどで交通量の多い国道に出ました。ちょうど数軒先にあるカフェが目に入りました。
「W君、あそこにカフェもあるし、お礼にお茶でも誘ってみないか?」
「いいですね。三人でコーヒーでも飲みますか」
私は「カフェ、カフェ」と連呼しながら店を指差し、ジェスチャーで一緒にお茶を飲むよう彼を誘ってみました。「ドリンク、トゥギャザー、オーケー?」、彼は大きくうなずくと一緒にカフェへ。
ジェスチャー混じりの私たちの話を、理解できたかどうかは彼の表情を見ていればわかります。「ここまでどうやって来たか」「アルジェリアでは何がおいしかった」など、他愛ない話ですが、終始ニコニコしながら聞いてくれました。
ティータイムは30分ほど、最後は例によって握手をしながら「シュクラン、マアッサラーマ」。アルジェリアでは、何度となくお茶をご馳走になっていた私たちですが、この時ばかりはご馳走させてもらいました。