テッサロニキのユースホステルに2泊し、この先ブルガリアに向けて出発します。
アテネから再び始まった一人旅、感覚がよみがえったのか、だいぶなれてきました。地図にはブルガリアとの国境まで125キロとあります。明後日には11ヵ国目のブルガリアに入国できそうです。
テッサロニキから国道12号線を北東へ約90キロ、Serre(セレ)の街の手前で北西に進路を変えれば国道63号線、そのままブルガリアへと向かいます。もう国境までは40キロを切りました。
晩飯の買い出しを Paleokastron(パレオカストロン)の町ですまし、小さな集落を走っていると、カフェの方から声がかかりました。道に面したカフェの入り口の左右に日除けの棚を備えたテラスがあり、客用のテーブルが置かれています。声の主はそのテーブルの男性二人と女性一人の三人組のオッさんでした。
テーブルの上の小皿料理と白色の飲料の入ったコップが目に入りました。[ハッハ~ン、オッさんたち酔ってるな]白色の飲料は Ouzo(ウゾ)といわれるギリシャのお酒です。
私に何か言っていますが、全然わかりません。反対側のテーブルでは老人二人がBackgammon (バックギャモン)のゲームに興じています。そのゲームを観戦中の若者の一人が英語の通訳をかって出てくれました。
「どこの人かと聞いています」
「ヤーポナス」
「どこから来たのか聞いています」
「アメリカ、カナダス、ブリタリア、イスパニア……」
「みんなで大したもんだと言っています」
オッさんは私にウゾの入ったコップを差し出しながら何か言っています。周りの人たちは笑っています。
「私の娘を連れて、日本まで帰ってくれないかと言っています。娘はとても可愛いと言っています」
私は差し出されたウゾを飲み干すと返事をしました。
「ご覧の通り私の自転車は荷物で一杯です。どんなに可愛い娘でも乗せて行くのは無理です」
私はいつのまにか三人組のテーブルに通訳(?)の若者と一緒に座っていました。勧められるままウゾを飲んでいるうちに口は軽くなり腰が重くなったようです。
私たちの騒がしさは気にならないようで、反対側のテーブルでは再び老人二人によるバックギャモンのゲームが始まりました。
ウゾはブドウの蒸留酒です。その蒸留過程でこの地方特産のアニスというハーブの香り成分を加えます。アルコール度数が40度もあるので水で割るのですが、アルコール度数が下がると香り成分が析出する形で白濁するのです。
ギリシャのアルコール消費の半分がワイン、残り半分がビールとウゾですが、その差はほんの僅か、いかにウゾが好まれているかわかります。ギリシャの国民酒といわれるゆえんがこの辺にあるようです。
ギリシャには特徴あるお酒がほかにもあります。白ワインに松ヤニで香りをつけたレツィーナというお酒です。もちろん試してみましたが、こちらは私の口に合いませんでした。
少々酔った私は、もう走る気になりませんでした。夕暮れが迫るなか、村外れにキャンプすることにしました。それでも国境まで残り20数キロです。