「オーケー、これで大丈夫。スポークの交換ができるよ」
「締めなくてもいいの?」
「うん。ねじ込んでおけば、走っているうちに自然に締まってくれるから」
そう言いながらスパナを返すと[そうだ。英語がわかる彼にハンガリー語を教えてもらおう]、スポーク交換を後回しにして、簡単な単語を教えてもらうことにしました。
「ハンガリー語なんだけど、単語でいいから教えてくれないかな。あっ、俺は日本人。入国してまだ二日目なんだ」
「へぇー、日本人か。いいよ、で何を?」
例によって、彼の発音をカタカナでメモることに。
「まずはコンニチハ。ハンガリー語で何ていうの?」
「ヨ・ナポトだよ」
「ヨ・ナポトね。じゃあ、イエスとノーは?」
「イゲンとネム。挨拶だけど、もっと簡単なのがあるよ」
「へぇー、どんなの?」
「シア! って声をかけるんだ。ハローとかチャオみたいなもんだよ。簡単でしょ」
「うん、オーケー。シアだね」
そのあと、買い物で使いそうな単語を聞きました。
「卵、パン、米.…」
「トャーシュ、ケニェール、リジュ.…」
最後に、「ビールをください」をどういうのか尋ねた。
「ケーレム・エギィ・シュール」
「ビールはシュールか」
「そう、シュール」
さっそく、お礼に一言。
「クスヌム(ありがとう)」
「シーベシェン(どういたしまして)」
「どう?」
「ベリーナイス!」
教えてもらった単語は20語足らずですが、少しはコミニュケーションに役立ちそうです。
道中、ガソリンスタンドや本屋に寄って地図を探していました。というのも、国境でもらった地図に心許なさを感じていたからです。
A4を一回り大きくした地図の裏側にはブダペスト市街図とハンガリー西部にある中央ヨーロッパ最大のバラトン湖が載っています。肝心な表側のハンガリー全図は自動車専用と見え、主要道路しか載っていません。どう考えても、自転車の走行に適しているとは思えないのです。
ブダペストまでの二日間、地図を探しながら走ったものの、望むようなものを見つけることはできませんでした。
ハンガリーに入国してから、ブルガリアやユーゴスラビアと違って、自転車の利用者が目に付くようになりました。おそらく平野部が広がっているからだと思います。