受付の青年は私の質問に丁寧に答えてくれました。ドナウ川の西岸には南北に並ぶように五つの温泉があるようです。マルギット橋を渡って宿に来たのですが、その橋から宿までの間に二つの温泉があり、知らずにその近くを通り過ぎていたのです。
五つの温泉のうち三つはオスマン帝国のころに建てられたトルコ式でイスラムの風呂ハマムと温泉を合体させたものと思われます。残る二つは〈ルカーチ温泉〉と〈ゲッレールト温泉〉、ともに露天風呂があるそうです。最南にあるゲッレールト温泉まで自転車でも30分ほどの距離です。この二つの温泉を下見がてら、のぞいてみることにしました。
入浴のパンツとエプロン
「ところで温泉に入るのにスイミングパンツがいるんだよね? テレビで見たことがあるんだけど」
「昔は裸でも入れたようですが、今はすべて混浴ですからパンツが必要です。ああ、ルダッシュという温泉だけは週末が混浴で、ウィークデーは曜日によって男女に分かれています。でも、裸で入浴できるかどうかわかりません」
「ふぅーん。で、パンツは温泉で売ってるの?」
「レンタルしてますから大丈夫ですよ」
「レンタルって、パンツのレンタル?」
「はい、エプロンのレンタルもあります」
「エプロン?」
「腰ひもの付いた小さなエプロンで、大事なトコロを隠すものです」
「お尻は丸出し?」
「はい、それにエプロンは屋内の温泉専用で、屋外の温泉にはパンツが必要です」
「ふぅーん。それじゃあ、女性用のエプロンは?」
「長いエプロンがあります」
何やら私の好奇心はあらぬ方向へ行ってしまったようです。
「それと、温泉で泳ぐ場合はキャップが必要です」
「泳ぐ人もいるんだ。いや、俺は泳がないよ。よくわかった、ありがとう。これから行ってみるよ」
宿から南へ程なくのフランケル・ルオー通りに並ぶように私が通り過ぎた2つの温泉がありました。手前にあるのがヴェリ・ベイ・トルコ温泉、その先がお目当てのルカーチ温泉です。それほど大きな温泉ではありませんが、地元の人がよく利用しているようです。温泉には医療施設が併設されており、温泉治療に訪れる人も多いと聞きました。
受付で話を聞くと、一部改修中で屋外の温泉は残念なことに利用できないようです。[しょうがないな、よし次だ]私は再び自転車を走らせ、さらに南のゲッレールト温泉へ向かいました。
ゲッレールト温泉は20世紀に建てられた比較的新しい温泉です。ブダペストで一番美しいといわれています。温泉は立派なホテルの敷地内にありました。[そういうことか。俺にはちょっと敷居が高いかも。ノンビリ露天風呂とはいかないようだ]結局、ゲッレールト温泉の下見はやめました。