しばらくして目をさましたフランツ爺さんが次に案内してくれたのは〈カールス教会〉。
17-18世紀にかけてヨーロッパ各地でしばしばペストが流行しており、ウィーンでも15万人の死者がでました。その撲滅を願って18世紀初めに建てられたそうです。
続いて案内してくれたのが〈国立オペラハウス〉。
歴史ある建物は第二次世界大戦の戦禍によりほとんど壊されて正面を残すだけとなりました。再建されオープンしたのは、占領下にあったオーストリアが独立した1955年でした。
最後はオペラハウスのすぐそばの〈ホーフブルグ宮殿〉。
ホーフブルグ宮殿は、13世紀から長きにわたりハプスブルグ家の王宮でした。天使の歌声として日本で人気のウィーン少年合唱団はこの宮殿の礼拝堂で歌っています。
宮殿の前は市民庭園と国会議事堂。そして公園を挟んで市庁舎が建っています。
「このへんにして、そろそろわしの家へ行こう。暗くなる前にな」
「オーケー。明日は一人でウィーンの街を回ってみます。インフォメーションで資料をもらいましたから」
フランツ爺さんの住まいは、市庁舎から西へ30分ほど行った Wattgasse(ヴァットガッセ)という南北に走る通りに面した建物です。いかにもヨーロッパの住居用のビルといった感じで丈夫な作りに歴史を感じます。
入り口の奥に自転車を置き、荷物だけ持って階上へ(何階だか忘れました)。出迎えてくれたのは、メガネをかけた優しそうなフランツ爺さんの奥さん。ひと風呂浴びたあとは奥さんの手料理で夕食です。
「ノブ、あしたはどこへ行くんだ?」
「シェーンブルン宮殿とプラターへ行くつもりです」
「シェーンブルンはウィーンを訪れる観光客は必ず行くみたいだな。プラターは公園だぞ?」
「映画で見たんですよ。ほらアレッ、え~と。ラウンド・ボックス? ゴンドラ?」
私は観覧車という英語を知りません。指をグルグル回しながらとっさに出たのがラウンド・ボックスとゴンドラでした。
「サードマンか?」
「そう、それッ! 映画のザ・サードマン(邦題「第三の男」)です」
「オーソン・ウェルズだな」
「はい、ジョセフ・コットンも」
「プラターもいいが、きょう寄らなかった〈シュテファンスドム〉にも行ったほうがいい」
「シュテファンスドム?」
「ああ、ウィーンっ子が好きな寺院だ。大きいぞ。昼間寄ったオペラハウスの北にある。高い塔が目印だ」
「わかりました。行ってみます」
夕食はやがて酒宴になり、例によって酔った二人はたがいに何を言っているかわからなくなっていきました。そんな私たち二人を奥さんはにこやかに見ていました。