インスブルックからスイスへ、いよいよアルプスの上りが始まりました。途中、標高1,793mの Arlberg(アールベルク)峠を越えなくてはなりません。この日はできるだけ距離と高さを稼ぐつもりでいます。
アルプスというと「アルプスの少女ハイジ」ではありませんが、ついスイスを思い浮かべがちです。
アルプスは中央ヨーロッパに位置する山系の総称です。フランスからイタリア、スイス、そしてオーストリアへと広がっています。一部ドイツとスロベニアも含まれます。各国でそれぞれ「何とかアルプス」と呼ばれているのです。
チロルアルプスと書きましたが、実際にはそんな山脈はないと思います。チロル地方のアルプス、そんなつもりで書きました。インスブルック周辺にも「何とかアルプス」と呼ばれる山脈が地図で数えただけでも五つほどあります。
インスブルックからイン川沿いを80キロほど、標高816mの Landeck(ランデック)の街でテント泊になりました。稼いだ標高250m、翌日の上りに備えることにします。
イン川はスイスのサンモリッツ周辺を水源とし、南からランデックの街へと流れ込んでいます。私はこの街でイン川と別れ、さらに西へと向かいます。約40キロ先のアールベルク峠をめざして上りが始まりました。
峠には100年ほど前に開通した鉄道トンネルのほか、数年前に完成したトンネルがあります。ただし、このトンネルは自動車専用で、自転車はいわゆる旧道を走らなければなりません。
40キロで標高差約1,000m、それほどキツイ上りではありません。それでも最後の10キロは押したり乗ったりの繰り返しになりました。いつものようにキツイ上りをいやしてくれるのが周辺の風景でした。
峠を吹き抜ける風は冷たく、あたりにはいまだに雪も見えています。長居は無用、私はウインドブレーカーを着ると早々に峠を下ることにしました。
アールベルク峠はチロル州とオーストリアの西端、フォアアールベルク州の州境になっています。フォアアールベルク州はウィーン単独州を除くと、オーストリアで一番小さな州です。峠を下れば、もはやスイスは目の前です。
つづら折りの急な下りから緩やかな下りへ、峠から30キロほど下るとドイツ、スイスへとつながるアウトバーンが現れました。さらに20キロほど下り、Feldkirch(フェルトキルヒ)の街でテント泊となりました。
フェルトキルヒの街からリヒテンシュタインまで南へ5-6キロ、スイスまで北へ10数キロの距離です。