「まあ、いまの話はすべて戦況が悪化する前のことだ。状況が変わればそれどころじゃなかった。わかるだろ。まあ、性欲より食欲ということだよ。さっきも言ったが、昔から軍隊と娼婦は切り離せない関係だ。よその国も同じだろ。ほら、朝鮮戦争の時は連合国と…
そうか、君ら戦後生まれはまだ小さかったから朝鮮戦争といっても知らないな。じゃ、ベトナム戦争ならわかるだろ。当時、ベトナムには米兵や韓国兵専用の慰安所があって現地の娼婦がいたんだよ。
戦後、日本では廃止されて公娼はいなくなったんだが、進駐軍の基地周辺ではアメリカ兵による婦女暴行事件が多発してな、困った米軍が日本側に何とかならないかと相談したと聞いたよ。
パンパン(アメリカ兵相手の私娼)とか赤線(警察が黙認した売春地域)とか聞いたことあるだろ。まあ、このご時世、今どきこんな話は君らにはピンと来ないかな」
Aさんの話を文章にすると長そうに見えますが、実際には数分間でした。多くを知らない私たちは、口を挟むこともできずに黙って聞いました。
戦争を肯定する人はいないでしょうが、公娼はどうでしょう。戦争というある種の異常ともいえる状況・精神のもと、その是非はともかく兵士にとって娼婦と交わることは一瞬の快楽とともに生きている実感を与えてくれていたのではないでしょうか。
先日、一部メディアによってイギリスの民間団体〈ライ・ダイハンのための正義〉が設立され、ベトナム・ハノイの韓国大使館の前に〈ライ・ダイハンの母子像〉を建てる計画があると、どこかで聞いたような話が報道されました。ライとはベトナム語で混血という意味です。ダイハンは大韓、つまり韓国人との混血児をさすそうです。
ベトナム戦争については多くの報道がなされています。アメリカ軍や韓国軍による民間人の虐殺については私も知っていました。
ただ、今回は韓国兵によるレイプによって生まれた混血児とその母親の人権と名誉の問題のようです。私はこのことについてまったく知りませんでした。
イギリスの民間団体の調査によると韓国兵との混血児の数は数千から最大3万人とあります。アバウトな数字で、数が大き過ぎる気もします。この数はレイプだけではなく、ベトナム人娼婦、戦後韓国に戻った民間人との間の混血児も含まれているのではないでしょうか。
数はともあれ、これらアメリカ兵や韓国兵との混血児母子は周囲から長い間差別されて暮らしてきたそうです(憎い敵兵の子ということでしょうか。ここはベトナムにも改めるべき点がある気がします)。
混血児たちは今や40才代、母親はすでに60才を過ぎています。母子たちの心の安らぎを取り戻すのは今しかないと民間団体は考えたようです。今回、アメリカがやり玉に上がらなかったのは、今まで混血児の国籍問題を含めそれなりに対応してきたからだということです。
続報によると、過去にベトナムにおける虐殺やレイプを取り上げた韓国メディアもあったそうですが、退役軍人の団体による猛抗議、果ては破壊・暴行事件にまで発展し、この問題は韓国社会ではタブー視されてきたようです。それを象徴するかのように、韓国政府は長きにわたり正式な謝罪はおろかコメントすらしていないということです。
今回、イギリス発のこの報道を受けて、韓国の一部団体は「韓国政府はベトナムに対して正式に謝罪すべきだ」として運動を起こしました。さて、どうなるでしょうか。