以前からスイスの物価は高いと聞いていました。それでも酒好きの私としては、どうしてもアルコールの値段が気になります。
入国初日の前日、途中のカフェでビールを試しに1本注文すると300円、酒税はそれほど高くないようです。[値段はまあまあだな。それに英語もオーストリアよりスイスのほうが通じそうだ]
リーコンの町はテス川沿いの人口千人ちょっとの町ですが、鉄道の駅もあります。町に着いたのはお昼前、ウィルフレッドから自転車屋の主人の名前はウォルター・ハイツマンと聞いていました。住民に尋ねるとお店はメインストリートから1本入ったところにあるようです。お店の名前は「ハイツマン」とありました。
「こんにちわーッ。ハイツマンさん」
お店には自転車のほか数台のモーターバイクが置いてあります。どうやら二輪車専門店のようです。お店の奥から出てきたのはメガネをかけ、鼻の下に髭をたくわえた中年のオジさんでした。東洋人のサイクリストを見て驚いたようですが、
「何か?」
「こんにちは。ハイツマンさんですか?」
「ええ、ところで何で私の名前を?」
「アメリカでウィルフレッドに…… 」
ウィルフレッドの名前を聞いたとたん、怪訝そうなハイツマンさんの表情は一変してにこやかになりました。ウィルフレッドとの出会いとともに自己紹介も。
「そうですか、よく来てくれました。歓迎しますよ」
「さっそくですが、キャリアにヒビが入ってるんですけど見てもらえませんか?」
「ヒビ? 溶接ですむならいいけどね」
「あと、新しいトウクリップと予備のタイヤも欲しいんですが」
「オーケー。じゃあ、そのヒビの入ったキャリアを見てみましょう」
自転車を店内に運び込むと、ハイツマンさんのチェックが始まりました。
「シマノやマエダのパーツは知ってるけどね。へぇー、これが日本のキャンピング車か、キャリアも頑丈そうに見えるけど。どれ、コレか? オーケー、これなら十分溶接で大丈夫だ。問題ないよ。ノブと言ったっけ。荷物を外してくれるかな」
「えっ、ハイツマンさんが直してくれるんですか?」
「ああ、いなかの自転車屋は何でもするよ。溶接もね。ワッハッハー。それと私のことはウォルターと呼んでいいから」
「ここで直してもらえるなんて、ありがとうございます。ウォルター」
「キャリアも自転車から外そうか? そのほうが作業しやすいしね」
キャリアを持って奥の作業場へ。修理中のウォルターさんに、気になるウィルフレッドのことを聞いてみました。
「ウィルフレッドはまだスイスに戻っていませんよね? 確か北米からオーストラリアへ向かうと言ってたんですけど」
「うん。まだオーストラリアを走ってるよ。戻ってくるのはたぶん来年だろ」
「そうですか。きっとオーストラリアを一周してるんだろうな。ニュージーランドにも行きたいって言ってたし。そうか、戻るのは来年か」
「よおーし。終わった。もう大丈夫だ」
「これで安心して走れます。ありがとうございました」
「ノブ、昼過ぎにウチの子どもたちが帰ってくるから、よかったら一緒に食事をしてけば」
「いいんですか? サンキューです」
こうして、サイクルショップ「ハイツマン」で昼食までご馳走になることになりました。
