ウォルターさんとしばし自転車談義で盛り上がるなか、
「ところで、ウィルフレッドの実家には寄ったかな?」
「ウォルターさんの近所だとは聞いていましたけど、まだです」
「近所って、うちの隣が姉さんのマリスの家だよ」
「えッ、ウィルフレッドのお姉さんがお隣さんなんですか!?」
「ウィルフレッドの実家はその姉さんの家の上だよ。よし、昼食が終わったら案内しよう」
そんな話の最中、娘さんでしょうか奥からのぞき込むように顔を出して、ウォルターさんに何事か声をかけています。どうやら家族がそろったようです。
ウォルターさんに案内されたのは裏手にある彼の自宅、食堂には奥さんのほか二人の息子さんと、私たちを呼びに来てくれた娘さん。みなさんを紹介してもらったのですが、覚えているのは娘さんのハイジのみ。スイスでハイジですから、この名前だけは忘れられませんよね。
食事中に英語の達者な上のお兄さんが質問してきました。
「スイスのイメージは日本ではどんな感じなんですか?」
「うーん。美しい大自然、永世中立国、高級腕時計かな。スイスの腕時計は日本では金持ちのステイタスになっています。私自身興味があるのが、スイスならではのダイレクトデモクラシー(直接民主主義)です。
あとは何といってもハイジですよ。7-8年前にアニメのハイジがテレビで放映され、子どもも大人もよく知っていますよ。ハイジちゃん、あなたは日本では有名人ですよ」
上のお兄さんが妹のハイジちゃんにアニメのくだりを説明すると、本人はニコニコしています。私は彼に聞いてみました。
「スペインではアニメのハイジがテレビで放送されていたと聞きましたが、スイスはどうですか?」
「5年ほど前にドイツの国営放送でやってたのを覚えていますけど、スイスでは放送されてないですね」
日本のアニメ「アルプスの少女ハイジ」はもともと原作がスイス人女性の小説です。
高畑勲、宮崎駿の両氏が製作した初期アニメとして有名ですが、海外ではこの小説をもとに映画やテレビドラマとして幾度となく製作されています。
アニメ「アルプスの少女ハイジ」はスペイン、ドイツ、フランスなどヨーロッパ各国でテレビ放送され好評を博しましたが、スイスでは放送されませんでした。原作とそれをふくらませたアニメの世界観のズレをスイスの放送局が懸念したようです。
物語の舞台はリヒテンシュタインの南、ライン川にほど近い街 Maienfeld(マイエンフェルト)近郊の村です。アニメ製作にあたって、現地で宮崎駿氏等による入念なロケが行われたことで知られています。その美しい風景を求め、日本からも多くの観光客がハイジの村を訪れています。