ツェルマット(Zermatt)は標高1,620m、フィスプ(Visp)から37キロ走って標高差960mほどを上ります。
ツェルマットでは環境保全のために馬車と営業用の電気自動車しか走っていないと聞いていました(ガソリン車は定期バスのみ)。ところが、町では道路工事中、掘削のための機器やトラックなどの工事車両が入り込み何やら騒がしい様相でした。
駅前広場に出ると、一人の若者が私を指差して何か言っています。すぐに彼のグループから拍手と大きな歓声が上がりました。理由は左右のフロントバックにゴムロープでくくり付けた缶ビールとワインです。
実は前日フィスプの街でパックの缶ビールとワインを1本買ったのです。ビールは1本ずつ買うよりパックの方が安いので、そうしていましたが、どうしても飲み過ぎていました。
前夜は翌日の上りに備え、自重してあまり飲まなかったのです(そのためか楽にツェルマットまで上ってきました)。それで、残った缶ビール数本とワインの瓶をフロントバックにくくり付けて走っていたのです。
若者たちの歓声は「おい見ろよ。呑兵衛のサイクリストがビールとワインをくくりつけて上ってきたゾ」そんな冷やかしのようです。私が手を挙げて応えると、再び連中から歓声が上がりました。[どうもどうも、ありがとう。ハイハイ、わかりましたよ]
駅のすぐ先に観光案内所がありました。ツェルマットにはユースホステルがあるので、観光資料のピックアップを終えると、受付の人に聞いてみました。
「すいません。まだユースホステルのベッドは空いてますかね?」
「今日はまだ大丈夫です。場所を教えましょう」
ユースホステルと連絡を取り合っているのでしょうか、即座に空きベッドがあると返事をしてくれました。ユースホステルはメインストリートを抜け川を渡った丘の途中にあります。
町外れのユースホステルですが、ロケーションが良くて晴れた日は最高の景色が拝めると、前日キャンプ場で会ったオランダ人に聞いていました。
いよいよマッターホルン、あすは大枚(?)25スイス・フラン(約2,900円、往復運賃は40スイス・フラン)叩いて登山電車に乗ります。帰りは電車に乗らず、歩いてツェルマットまで下る予定でいます。
この日の日記には「あしたはサンドイッチを作ろう。チョコレートを持って行こう。途中、コーラかファンタを買おう」と、遠足前夜の子どものような言葉が並んでいます。
ところが、ホステルのベッドに横になると、かすかに雨音が聞こえてきました。[何だよ雨かよ。頼むよ、あしたは降らないでくれよ]