フランクフルトへは3号線から外れ、ノンビリと田舎道を行くことにしました。距離的にはハイデルベルクからフランクフルトまでは1日で行けますが、知らない大都会に夕方到着するリスクを避け、翌日早めに行くことにしたのです。
[オッ、あったね。この奥だな]道路脇にキャンプ場の看板を見つけました。この日はフランクフルトの手前のキャンプ場を利用するつもりでした。
西ドイツでは、20万分の1の道路地図を行く先々で購入して使用していました。地図にはユースホステルを示す青い三角に白ヌキのJの文字、そのほかキャンプ場を示す赤い三角と同じく白ヌキの赤三角の印(夏期のみオープン)が数多く印刷されています。西ドイツ国内ではキャンピングカーなどでキャンプ場を利用しながら旅行するのがポピュラーなようです。
いつものように1リットルのビールを飲みながら夕食を終えると、隣のキャンプサイトから声がかかりました。テントを張りながら挨拶したドイツ人夫妻の旦那さんです。私と同じ30才代のようですが、ちょっと年上かもしれません。夏休みを利用して、ご夫妻でキャンピングカーで国内旅行をしているようです。
「どう、飲み足りないんじゃい? バーでもう少し飲まないか? おごるよ」
「ええ、いいんですか? じゃあ、ちょっとだけ」
「そう、よかった。君の旅の話を聞かせてよ。ワイフも聞きたいって」
「そうですか。いいですよ」
キャンプ場の設備は色々です。水場だけ、シャワー付きから、何でも揃うコンビニ風のお店が併設されているキャンプ場もあります。このキャンプ場には受付の裏にバーがありました。そこへ飲みに行こうと誘ってくれたのです。
「Prost(プロースト・乾杯)!」ビールで乾杯の後はワインでまた乾杯。酔うほどに旦那さんと私の話も弾んでいきました。奥さんは旦那さんの隣でワインを口にしながら二人の話を聞いています。ひとしきり私の旅の話が終わると、
「ところでわが国はどう? どんな印象?」
「そうですね。貧乏旅行者としては物価が高くて困ります。ノンビリと旅ができない印象です。カナダ、イギリス、西ドイツと物価が高いです。日本も同じですけど。でも、西ドイツはビールだけは安いですよ」
「そうだろ。ビールだけは安いだろ」
「どうしてですか?」
「そりゃ、この国でビールに高い税金をかけたら革命が起こるからさ」
「ええーッ、革命!?」
「ワッハッハハハーッ。冗談、冗談」
「あとはいろんなことがキチンとしてる気がします。今のところイヤなことがありませんから」
「日本もそうだろ?」
「どうでしょう? 似ているかもしれませんね」
物価の高い西ドイツでビールは安かったと思います。瓶ビール1本約100円、日本の半分以下でした。旦那さんはビールについて詳しく話してくれました。
ドイツには千を超すビール醸造所があり、数千種類のビールを作っているそうです。新鮮さを保持するため、その醸造所の周辺でしか飲ませないビールもあると聞きました。
この日は土曜日です。キャンプ場のバーも深夜営業、酔っぱらいの話は延々と続きました。