「で、美味しかった? ビールは」
「いろんなビールを飲みましたが、正直なところ、よくわかりません。でも、みんな美味しいです」
「そうか……」
私の返事に少々ガッカリしたようでした。ビールの種類やメーカーを答えてほしかったようです。今では発酵の仕方でやれラガーだエールだとかピルスナー、ペール、スタウトと名前を挙げることができますが、当時日本でラガーと呼ばれるビール(現在もほとんどこの種類です)しか飲んでいなかった私はビールについては全くの素人、「みんな美味しい」としか答えようがなかったのです。そこで私は話題を変えました。
「ほらッ、街角のワゴンでソーセージを売ってるじゃないですか、お腹が減るとあれをよく食べてます。焼いたのより茹でたソーセージが美味しいですね」
「ああ、ブルスト(ソーセージ)・スタンドね」
「ウィーンにもありましたけど、ドイツではどんな小さな町にもありますよね。大きな街ではワゴンというよりキオスクみたいなお店で売ってるのをよく見かけました」
「焼いたり茹でたりって言うけど、あれはソーセージの種類によって調理法が違うんだよ」
「茹でてあるのはフランクフルト・ソーセージだよ。フランクフルトは茹でなきゃダメだね」
話はこうです。ドイツには土地土地によりいろいろなソーセージがあり、その数は千以上になるそうです。当然ですが、腸詰めされた肉や香辛料が異なるため、美味しく食べるにはおのずと焼いたり茹でたりと調理法や添え物が変わるらしいのです。わざわざ腸詰めを切り開いて、中身だけ食べるソーセージもあります。今度は奥さんが聞いてきました。
「ソーセージと一緒にビールは飲まなかったの?」
「え~ッ、サムタイムズ飲みましたよ」
「嘘でしょう? エブリィタイムでしょう」
「ノー、ノー、サムタイムズ。自転車も酔っ払い運転になりますから」
旦那さんはタバコを吸っていました。そこで、ずっと気になっていたことを聞いてみました。
「あのー、自動販売機でタバコを買うと20本入りと21本入りの両方が出てくるんですけど、何でなんですかね?」
「君が吸ってるのはマール・ボロだね。4DM(ドイツ・マルク)だ」
「ええ。でも、今はキオスクか売店で買ってます。19本入りで3.6DMですから」
「売店で買うのが一番おトクかな。自動販売機じゃ、お釣りが出ないからね。20本入りで売りたいんだろうけど、そうすると19本入りとの値段のバランスが取れないからね。買い手が損した気にならないように21本入りのタバコも混ぜてあるんだよ」
確かに西ドイツの自動販売機はお釣りが出ませんでした。それにしても19本入りの箱は6・7・6、20本入りは7・6・7、21本入りは7・7・7の並びになります。3種類のパッケージはコスト高につながらないのでしようか。 わかったようなわからない話でした。
時計を見るといつの間にか10時を回っています。奥さんはすでにキャンピングカーへ戻っていました。
「いゃあー、いろいろと聞けて楽しかったよ」
「こちらこそ。ご馳走になった上にいろいろ教えてもらい、ありがとうございました」
酔っ払い二人もそれぞれのキャンプサイトで寝ることに。