「見張りの警備兵だけじゃなくて、オートマチック・ライフルも設置されてるよ」
「オートマチック・ライフル? 何それ?」
「人影を感じると、自動的に発砲するんだ」
逃亡阻止とはいえ、地雷と自動発砲銃、脅しの意味合いが強いのでしょうが、どちらも自国民を標的にした武器です。どうにもひどい話に思えました。
「道が封鎖されているのはわかったけど、アウトバーンもか? ヒトラーが造らせたアウトバーンだよ」
ドイツが誇るアウトバーンは皮肉を込めてヒトラーの最大の功績といわれています。戦後はオーストリアやスイスにまで伸びていました。
ブルックヘッドの話では、一部のアウトバーンは西ベルリンへ繋がっていて、西側の一般車は途中で下りることはできませんが、西ベルリンまで行けるそうです。さらに、東ドイツのアウトバーンには大戦時の爆撃で損壊したままの箇所が、いまだにあるかもしれないということでした。
「今、ヒトラーが造らせたって言ったけど、確かにアウトバーン事業で多くの失業者が救われたんだ。それで、ヒトラーの人気が上がったんだけどね」
ブルックヘッドの話を聞いて、私は歴史の授業で習ったアメリカ発の大恐慌を思い出していました。アメリカへの輸出産業が盛んだったドイツも大量の失業者で苦しんでいた頃です。
「でも、ヒトラーが首相になる前すでに、ケルン・ボン間にドイツで最初のアウトバーンが完成していたんだ」
「へえー、そうなんだ」
「だから、ヒトラーはアウトバーン事業を始めたんじゃなくて引き継いだんだよ」
ブルックヘッドは詳しく説明してくれました。自国のことですから当たり前かもしれません。
帰国後1、2年して東ドイツが国境に設置した地雷と自動発砲銃を撤去したとニュースで知りました。西側からの非難を受けてのことです。