フェリー乗り場で簡単な朝飯を済ますと、朝イチでクロンボー城へ行ってみました。お城が建てられたのは1420年です。その後、増築や火災による建て替えなどもあり、現在のお城は18世紀当時のものです。20世紀になると、クロンボー城はデンマーク軍基地の司令部が置かれたそうです。
城壁の向こうにどっしり構えたお城が建っています。[あれッ、開いてないや。早すぎた? 休みかな?]入り口の門が閉まっており、結局城内を見ることなく、お城の周りを一回りして戻ることになりました。途中、街でキャンピングガスのカートリッジを一つ購入してフェリー乗り場へと向かいました。
スウェーデンからのフェリーから車と乗客が降りると、今度はこちらデンマーク側から乗船が始まりました。この辺りはエーレスンド海峡でも最も幅が狭く7キロほど、時刻表によると30分もかからずにスウェーデン側の港町 Helsinborg(ヘルシンボリ)へ着きます。
自転車を固定してデッキに上がると、乗船時に見かけたデンマーク人の若者が英語で話しかけてきました。私の自転車が気になっていたようです。ひとしきり私の話が終わると、逆に彼に聞いてみました。
「何しにスウェーデンに行くの?」
「買い出しさ。母親に頼まれてね」
「デンマークよりスウェーデンの方が物価が安いの?」
「いや。スウェーデンも物価は高いけど、母親のお気に入りがあってね」
「そういうことか」
「僕は地元だし、母親に頼まれれば断れないから。逆にスウェーデンからはデンマークにお酒を買いに来るよ。さっき降りた人の中にもいるはずだよ」
「へぇー。スウェーデンじゃお酒が高いんだ」
「うん。デンマークに比べて酒税が高いからね。だからお酒だけはデンマークに買いに来る人が多いよ。個人で飲むお酒はオーケーだからね」
私は他国での国境を行き来するフェリーのことを思い出して彼に話しました。
「カナダ人もフェリーでアメリカへお酒を買いに行くし、スペインからポルトガルへ日用雑貨を買いに行く人を大勢見たよ。両方とも川だったけどね」
「川ならなおさらだよ。時間もかからないし、当然安い方に行くさ。どこの国でも考えることは同じなんだよ」
もう一つ気になっていることを聞いてみました。
「あのさぁ、こっちがヘルシンオアで、あっちがヘルシンボリって似たような街の名だけど、何かあるの?」
「ああ、それは……」
彼の説明によると、ヘルシンオアはヘルシンボリを守る要塞とか砦という意味のようです。今は海峡を挟んでスウェーデンとデンマークと国を別にしていますが、デンマーク王国のもと同君連合時代には海峡が国境という認識はなかったそうです。
つまり、ヘルシンオアのクロンボー城はヘルシンボリを守る最前線だったのです。海峡を航行する船舶のチェックと同時に通行税のようなものも徴収していたそうです。