国境でパスポートチェックを受けなかったのは2回目になります。1回目は道中をショートカットするためオーストリアから西ドイツ国内を20キロほど走った時です。それも出国時のみで入国時にはちゃんとチェックがありました。つまり、入国時にチェックがなかったのはノルウェーが初めてということになります。
「渡航者のパスポート・チェックは入国する国と出国する国でのみ行い協定国内を旅行中はチェックをしない」という取り決めがヨーロッパの「シェンゲン協定」です(ほかにパスポートの有効期間と日数の決まりがあります)。しかし、その協定が締結される以前からノルウェーではパスポート・チェックが行われていなかったのです。
私にとってパスポートに押される入出国時の日付入りスタンプは自転車旅の足跡そのものです。やっとたどり着いた国境はゴールであると同時に新たなスタート地点になります。
入国時の係官はなるべく新しい頁に自国のスタンプを押そうと、空きを探してパラパラとパスポートの頁をめくります。出国スタンプは原則その国の入国スタンプと同じ頁に押します。そのため出国時にも係官はパラパラと自国のスタンプの押された頁を探します。
そんな時、聞きなれない言葉で係官に声をかけられることがあります。「色んな国に行ってるね?」たぶんそんなことを言っているのだろうと「Yeah, by bicycle(うん、自転車で)」と応えていました。
見慣れない印紙が貼られたビザを見つけると「これはどこの国だい?」と係官に尋ねられることもありました。私にとってパスポートは国境でのコミュニケーション・ツールでもあったのです。
共産圏での荷物検査も思い出深いものがあります。アルジェリアでは入国書類に記入した後にバッグの奥まで厳重なチェックを受けました。その後、別室で所持金とカメラなど貴重品の申告をしました。
ブルガリアでは全ての荷物をテーブルの上に並べ、チェックを受けるのと同時に係官に所持品リストを書いてもらいました。私のズーム付きのコンパクト・カメラに興味を持った係官たちは取っ替え引っ替えカメラのファインダーを覗いてズーム機能を試していました。
西側ヨーロッパに入るとほとんどパスポート・チェックのみでスタンプを押さなくなりました。私の方から「旅の記念にスタンプを押してください」とお願いしていましたが、それも最初のうちだけでした。ほとんどの国境で当たり前のように押さないので、いつの間にか頼まなくなっていました。