テントを打ちつける雨音で目が覚めました。時計を見るとまだ５時半です。［まいったな、結構降ってるよ。もうひと眠りするか］
７時半、今度は起床です。といっても雨は相変わらず、小降りになったのを見計らいテントの中で朝飯の仕度に取り掛かりました。結局走り出したのは10時を過ぎてから、デンマークに戻ってからの３日間はこんな調子で雨天が続き、この日も雨宿りをしながらの70キロほどの走行でした。
［温かいシャワーが浴びたい。今日はキャンプ場にしよう］ユトランド半島の南西、デンマークの最古の街の一つ Ribe(リーベ)のキャンプ場へ飛び込みました。
１泊22＋４(シャワー代)＝26Dkr(デンマーク･クローネ 約650円)
シャワーを浴び晩飯の仕度を始める頃には雨も止んでいました。隣のキャンプ・サイトから声がかかりました。
「一緒にビールをどうかね？」
「いいですね。飲みますか？ ご一緒します」
声の主はお爺さん、ドルトムント在住で名前はエリックさん。奥さんと二人で車で旅行中とのこと、なぜか西ドイツの車ではなくフランス製プジョーのワンボックスカーです。いつの間にか奥さんも加わり何だかんだと話が弾み、
「すまんが８ミリカメラに向かって何か喋ってくれんかのう？ 日本語でな」
「えッ、８ミリですか？」
「わしらの旅の記録にと思ってな」
そういうとエリックさんは車から８ミリカメラを持ち出しました。
「何を喋ればいいですか？」
「何でもいいから、君に任すよ」
「わかりました。じゃあ、いきまーす」
まず自己紹介から始め、自転車旅の行程、西ドイツはビールが安くてうらやましいなど…etc. カメラを前に２分ほど喋ったと思います。もちろんエリックさんに話の内容を伝えました。
「うん、わかったよ。さーて、わしらはソロソロ寝るかな。これ持っていきなさい」
「えッ、そんな!!」
エリックさんは100クローネ札(約2,500円)を差し出すと躊躇する私に、
「いいから遠慮しないで。何か美味しいものでも食べなさい」
「はい。じゃ、８ミリの出演料ということで。ありがとうございます」
「フッフッフッ、出演料か。そうだな」
いつの間にか雲間から星が覗いていました。［明日は晴れないかな］
42,000km by bike 