「俺はこのまま北海まで走るから」
「観光はもういいんですか?」
「うん、一回りしたから。T君はどうするの?」
「僕はもう少し回ってみます。オランダはその後と思っています」
「じゃあ、ここでお別れだね。記念写真を撮ろうか。そこに立ってよ」
運河を背にT君にポーズをとってもらいました。
「次はそっちから走ってきてくれる」
「わざわざ走るんですか? はい。いいですよ」
T君の写真を撮り終えると、彼に促されて私が橋の欄干に腰かけて写真を撮ることになりました。
「俺の方が早く帰国するから、写真は君の実家へ送っとくよ。それじゃ元気で」
「はい。ありがとうございます」
「じゃぁね」
T君と一緒に走ったのはたった一日、それでも別れとなると何となく嫌なもんです。
これがその時の写真です。帰国後T君の実家へ写真を送ると、彼の母上からお礼の手紙が届きました。
どこで撮った写真か思い出せませんが、教会の高い尖塔と洒落た建物、ベルギーらしい一枚だと思います。
ブルージュから20キロちょっとで北海の港町オーステンデに出ました。オーステンデはゼーブルッヘとともにドイツ海軍の潜水艦Uボートの基地があった港です。ただしそれは昔の事、今ではそんな面影は微塵もありません。私の目には洗練された海辺のリゾート地として写っていました。
オーステンデから北海沿いをしばらく走り、久しぶりに波の音を聴きながらの野宿。フランスとの国境はもう目の前です。