ドーバー海峡は北海と大西洋を結ぶイギリス海峡の東端に位置する海峡です。34キロという幅はイギリス本土とヨーロッパ大陸との最短距離になります。そして、多くのスイマーがチャレンジする海峡横断の遠泳コースとしても有名です。
これはそのドーバー海峡の写真です。沖行く船を撮ったつもりですが、あいにくの天気でどうにも見えません。
カレーからの海岸線は今までの平坦な道と違い結構アップ・ダウンがあります。
キツそうに上る私の姿を見て、トラックの運ちゃんが声をかけてくれます。道路工事の連中は手を叩いて応援してくれます。[ハイ、ハイ。ありがとうございます。どうぞ皆さん仕事を続けて下さい]
トンネルを抜け出て一気に下ると小さな漁村に出ました。[漁はもう終わったんだ。静かだね]ポツリ、ポツリと現れるひなびた漁村を横目に海岸線を走ります。
道はそのまま港町 Boulogne-sur-Mer(ブローニュ・シュル・メール)へ。カレーやダンケルクだけでなく、このブローニュ・シュル・メールの港からもドーバーを始めイギリス側の港へ多くのフェリーが出ています。当時は船での往来がメインでしたが、1994年になるとドーバー海峡を結ぶ鉄道海底トンネルが開通し、より便利になっています。この日はブローニュ・シュル・メールの郊外で野宿となりました。
水をもらうタイミングを逃してしまい、野宿にいい場所が途中2ヶ所あったもののまだ走っていました。もう日没がせまっています。[おッ、アソコで水をもらおう]街道沿いにガソリン・スタンドを見つけました。
炊事、洗顔、歯磨きと野宿するには当然水が必要になります。私は夕方近くになるといつも「どこかで水をもらわなきゃな」と思いながら走っていました。
走りながら玄関先や庭先の家人と目が合うと、自転車を止めて水をもらえないかとお願いしていました。人里離れた所では野宿の場所探しに苦労しませんが、逆に水の調達に苦労します。そんな時は見かけた民家を訪ねて水をもらうことになります。
以前、携行していた交通公社の「六ヵ国会話」について記しました。もちろんその会話集にもフランス語が載っています。それでも英語のわかる若者に出会うと、必要な言葉をより具体的に聞いていました。
「水を下さいって、フランス語でどう言うの? 簡単なの教えてくれる」
「簡単なの? De l’eau, s’il vous plaît. かな」
「えッ?! もう一度、ゆっくりお願い」
「De…l’eau,… s’il vous…plaît.… オーケー?」
「ドゥ…ルゥ…、シルブ…プレ…? ドゥル・シルブプレ。どう?」
「オーケー。通じるよ」
いつものように口に出しながらカタカナでメモします。もっとも、手にポリタンクとボトルをぶら下げていますから言葉以上に「水が欲しいのだな」と理解してくれたはずです。