私の親が映画館のオーナーと知り合いだったこともあり、小学校低学年の頃からいわゆる「顔パス」でチャンバラ映画をよく観ていました。
中学生になると洋画にも興味が湧いてきます。中学一年の時に初めてミュージカル映画「ウエスト・サイド物語」を観たあとなど、映画をまねて指をならしながら友達と一緒に踊ったりもしました。
今もそうですが、昔から話題作といわれる映画は年末からお正月にかけて公開されていました。私はもらったお年玉でその「お正月映画」をよく観ていました。
東京・杉並の我が町にも洋画専門の映画館が一軒ありました。ところが話題の「お正月映画」が上映されるのはお正月からしばらく経ってからでした。規模が小さいからなのかそれとも映画館の懐事情なのか、封切り時にフィルムが配給されなかったようです。何しろ上映時間に合わせて何本ものフィルムがフィルム缶と呼ばれる容器に入れられ、自転車やオートバイで映画館の間を行ったり来たり運ばれていた時代ですから。
1964年の秋、フランスのミュージカル映画「シェルブールの雨傘」が公開されました。私が地元の映画館で観たの翌年になってからだと思います。同じ頃、アメリカのミュージカル映画「マイフェアレディ」も公開されています。
ストーリーはカトリーヌ・ドヌーブ演じる雨傘屋の娘とアルジェリア戦争に徴兵された恋人の自動車整備工の青年との結ばれぬ恋物語。よくある普通の内容ですが、なぜ記憶に残っているのかというと……
まず、主演のカトリーヌ・ドヌーブの美しさです。当時フランスにはブリジッド・バルドー(愛称ベベ)という人気女優がいました。ベベがコケティッシュな魅力ならカトリーヌ・ドヌーブは正統派の美人女優。片やジャン・ポール・ベルモンドなら片やアラン・ドロン、私の中ではその女性版といった感じでした。
次にオープニング。雨の中を傘を差した人々が行き交うのですが、それを真上からカメラで撮っているのです。スクリーン上を上から下から、そして横からとカラフルな雨傘が移動していきます。もちろん顔は見えません。自転車が走り抜け、傘をささない水兵が小走りで横切ります。学校帰りの女学生でしょうか、一列になった傘が急に止まると同時に横から乳母車が出てきます。映画の冒頭「今のシーン、ヒロインがいたの?」「これからどんな物語が始まるの?」と、期待させてくれます。
そして、もう一つ。ミュージカルといえば歌と踊り、もちろん普通のセリフもあります。ところが「シェルブールの雨傘」には踊りがありません。そして普通の会話らしきものがないのです。プロ歌手による吹き替えですが、登場人物が常に歌っている感じなのです。普通のミュージカルと違い、何とも不思議な感じがしたのです。映画の内容よりも作風が私の記憶に強く残っているのです。
そのカトリーヌ・ドヌーブさんですが、第30回「高松宮殿下記念世界文化賞」の演劇・映像部門(他4部門)を受賞し、授賞式のために先月来日しました。年は取りましたが相変わらずのオーラを放っていました。何でも日本の是枝監督による本人主演の映画が来年公開されるとのことで楽しみです。