2号線は瀬戸内工業地帯をつなぐメイン道路です。ダンプなどの大型車の交通量の多さにうんざりしていました。
徳山を過ぎ、新南陽(両市は合併、現在の周南市)に差しかかるころ、まずいことに雨が降り始めました。こんな時は街道沿いのパチンコ店で雨宿りを兼ねてトイレ休憩を取ります。店内は火曜日の昼間だというのにお客でいっぱい、客付きの良さは優良店の証しです。小用を済ませ、温かいコーヒーをすすりながらパチンコ台を覗くと、さもありなん、釘がパックリ開いています。
今でこそパチンコは機械的な抽選をデジタル表示する運任せの遊技ですが、当時はヒラ台(一般台とも)と呼ばれるチューリップ台も多く、それらは当たり穴に入れば15発の玉が戻される仕組みで、まさにアナログ、つまり運に頼ることなく出る台は出た、ここ大事です。
私はパチンコ好き。「釘を読む」つまり釘が開いた台、チューリップに飛び込みやすい釘の調整を見分ける大切さを知っていました。具体的には前日の釘との違いや隣の台との釘の比較、プラス経験値です。
これまでも街道沿いのパチンコ店でトイレを利用させてもらっていましたが、自ら封印して一度もパチンコを打ったことはありませんでした。好きなパチンコを打っていたら、道中いっこうに先に進めないからです。
「この台、この釘なら出るだろうな。雨は止みそうにないし、少し打つか」この時ばかりは禁を破り、パチンコ台に着席。出足こそ手こずりましたが無事に打ち止め、出玉は約2,500発ほど、差し引きプラス5,000円です。
現在では高換金率のパチンコが主流ですが、当時は「客が1玉を4円で借り、店側が客の出玉を2.5円で買い戻す」というのが主流でした。つまり「換金差の分だけ店が有利=お客に出玉のサービスができる」どういうことかというと、店が営業する際の割数(わりすう=出玉還元率による利益率)に余裕ができ、お客側が必ず勝てる(儲かる)台を店側が用意できたのです。それがいつしか店側の勝手な競争原理(高換金率で集客する)で3円、3.5円、4円と換金率を上げ、多くのパチンコ店が等価交換に移行していきます。
現在、東京都では等価交換に規制が入り、28玉=100円、約3.57円がマックスです。ただしパチンコを管理する風営法の運用は都道府県、所轄警察によって規制に違いがあります。等価交換での営業が許されていたり、朝9時開店や年末年始の24時間営業など地域によって違いがあるのです。
戦後、パチンコが商売として成立していく過程で多くの朝鮮半島や大陸にルーツを持つ人が関わります。彼らはいわゆる在日といわれる地元の人です。商店街のメンバーの一員でもあり、地元密着型の営業をしていました。平たくいうとアコギな営業をしない、お客に楽しんでもらい、なお且つお店の利益も生む、つまりいい意味で一つのお店の中で収支をバランスよく完結することができたのです。それが大手パチンコチェーン店が進出してくると業態に変化が生じます。資本力をバックに赤字覚悟で出玉のサービスを行い、既存の地元店から客を奪った後で、じわじわと客から回収にかかるのです。そんな中で多くの地元店が閉店に追いやられていきました。もちろん、今でも多くのパチンコ店が在日系のオーナーによる経営です。一説によると韓国系と北朝鮮系を合わせて90%といわれています。
ここへ来てにパチンコをする人が年々減ってきています。というのもパチンコ店側が長きにわたりお客をいじめ過ぎた(出玉率をしぼり、客に還元しないボッタクリ)反動で、客離れが止まらないのです。結果、自ら首を絞める形でパチンコ店の店舗数も年々減少しています。悪循環というヤツです。
もちろん、パチンコ店だけの話ではありません。当たりと外れだけの機械の仕様にもかかわらず、パチンコ台製造メーカーは、モニター上での過度な演出や、ド派手な装飾で1台30~40万円もするパチンコ台を製造・販売しています。それらが全てパチンコ店を介してお客に跳ね返ってくるのです。
また、前年比売り上げが落ちているにもかかわらず収益は変わらない、つまり利益率のみ上げて営業をしている大手チェーン店が存在するのも事実です。こんな不思議というか、いい加減とも思えることがここ数年続いているのです。
話を戻します。当時のパチンコは現在の出玉無制限営業と違って定量制でした。多くが4,000発定量の打ち止めです。ただし、一台4,000発と一人4,000発の二通りがありました。この日のパチンコ店は前者でした。私の打ったパチンコ台は前に座った人がすでに1,500発ほど出していたということです。1玉=2,5円換金、打ち止め4,000発の出玉で10,000円です。これならパチンコは遊びの範囲です。お店は「打ち止め台」をリセットして、いわゆる「開放台」としてお客が再び遊技できるようにしていたのです。
「お兄さん、出てるじゃない。ちょっと休憩して遊ばない?」遊技中に声をかけてくるパチンコ売春。出玉を足元に箱積みしているのでわかるのです。「旦那の退職金に手を出したのがバレて、離婚騒ぎになっている」パチンコにハマってしまった奥さん。
お客を含めてパチンコ業界全体が過激にエスカレートし、20兆円とも30兆円産業ともいわれ始めたころの私が実際に経験した話です。
最後にもう一つ。最近のパチンコは運任せと記しましたが、誤解があってはいけないので追記します。抽選は確かに1回毎の運任せなのですが、その大当たりの抽選確率は100分の1、300分の1などパチンコ台によって決まっています(これらパチンコ台のスペックは公安委員会の指定機関、(財)保安通信協会(通称、保通協)の試験、認定を受けなくてはなりません)。確率は試行回数が多ければ多いほど収束に向かいます。つまりデジタルを多く回せば回すほど運に左右されずに確率通りに当たるということです。パチンコのデジタルを回すには特定の穴にパチンコ玉を入れる必要があります。その穴に入りやすい台と入りにくい台があります。それは釘の調整によって左右され、同じ玉数を費やしても試行回数が変わってくるのです。つまり少ないお金で多くのデジタル抽選(多く回すといいます)ができる台が「いい台」「出る台」ということになります。そんな台を探すのがパチンコの醍醐味、必勝法につながります。ただし、開店から閉店まで一日パチンコを打ったとしてもデジタルを回せる(大当り抽選回数)のは3,000回ちょい、こんな少ない試行回数ではその日の内に確率は収束しません。今は「結果的に運任せ」そんな所がパチンコの面白さになっています。逆にいうと回る台をひたすら回すことしか必勝法はないのです。
ただし、警察はここに来て射幸心をあおるということで店側に釘をイジることを禁じ始めました。メーカーが出荷したままの状態のパチンコ台での営業、つまり台ごとに回転数にメリハリをつけるなということです。これもまたパチンコの面白さを削ぐ一つになっています。
大量出玉とともに本来の遊技から離れ、ギャンブル化していったパチンコ。やがてお客を含めた業界全体が疲れ、迷走をし始めた。そんな現状があるのではないでしょうか。
来年の4月からやっとパチンコ店内での禁煙が実施されます(喫煙室などの特定の場所での喫煙可)。これを機に新たなお客の掘り起こしとともに、お客に優しい健全な営業をパチンコ店にお願いしたいものです。
今回は脱線してなぜかパチンコの話になってしまいました。興味のない人には面白くも何ともない話でした。
結局、雨宿りのパチンコでこの日の走行距離は50キロほど、まだ山口まで30キロ以上あります。
次回こそ、山口から秋芳洞へ向かいます。
パチンコ文化人類学のフィールドワークに基づいた考察、たいへん興味深く読みました。
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