私が知っているスペインの歴史は、学校で習ったヨーロッパ史の一部でしかありません。
イベリア半島は古代ローマ時代から、さまざまな民族によって侵略が繰り返されました。元祖「太陽の沈まぬ国」スペイン、その凋落後は長く争いの歴史が続くことになります。スペイン内戦の犠牲者は戦死者と処刑者合わせて40万人とも50万人ともいわれています。
第二次世界大戦後30年以上続いたフランコ独裁政治。なんだかスペイン王国にはイギリス以上に複雑な背景がありそうです。
「…? …」
彼女の仲間の先生から声がかかりました。
「何か?」
「ええ、近くのカフェにこれからみんなで一杯飲みに行くんです。よかったらあなたもどうですか?」
「えっ、いいんですか。ぜひ、ご一緒したいですけど?」
「…?…」
「…?…」
「オーケーですって、行きましょう」
お礼の歌「コモエスタ赤坂」
先生と保護者と私を含め総勢9名、夜の街に繰り出しました。
難しい話は、もうありませんでした。旅の話や私に対する質問は彼女が通訳してくれました。お酒の量とともに時間は過ぎ、もう12時近くになっています。翌日に峠越えが控えている私は、一足先に帰ることにしました。覚えたての言葉で
「Cuánto?」(いくら?)
「No.」「No.」…「No.」「No.」……
どうやら、みなさんでおごってくれるようで、全員でいらないと言っています。私は「お礼に歌を唄います」と女性の先生に伝えました。酔っていたのか、よほど嬉しかったのか、急に言い出した自分自身に驚きました。彼女はみなさんの会話をさえぎるようにちょっと大きな声で、
「Música! Música! ムシカ! ムシカ!」
(ミュージック! ミュージック!)
静かになったところで、私は立ち上がり歌い始めました。
♪♪「コモエスタ・セニョール、
コモエスタ・セニョリータ。
酔いしれてみたいのよ、赤坂の夜。
…
それが赤坂、赤坂。デルコラソン」
訳のわからぬ歌にも関わらず、皆さん拍手をしてくれました。私は最後に、
「Everybody, Gracias, Ciao.」
(ありがとう、それじゃ)