岩山を削って道を通したのでしょう、道路脇には幾重もの地層がむき出しになっています。高い壁のような地層を眺めながら休憩をしていると、道路脇をロバを引いたオジサンがやって来ました。
ロバの背中には大きな壺が二つ載っています。なんだか写真が撮りたくなり、オジサンにお願いするとロバと一緒にポーズ(?)をとってくれました。
「ところで、あの壺のなかには何が入っているんだろう? 畑にまく肥料とか、それとも何かの燃料の灯油かな」
「僕、聞いてきますよ」
「え~えっ。聞きに行くの? いいよ、いいよ」
W君は私よりスペイン語が上手で、その上好奇心も旺盛です。オジサンを追いかけてわざわざ聞きに行きました。
「何だって?」
「何か、食事の時に使うみたいなんですけど、よくわかりませんでした」
アルヘシラスまではもう20数キロ。道を大きく左に曲がると右手眼下に海が見えてきました。〈ジブラルタル海峡〉です。後ろからW君の声が、
「Hさ~ん。何だか陸地らしいのが見えますヨ~。アフリカですよネ~」
海峡は狭いところで、南北間14キロです。あいにく天気は曇りで視界がキクとはいえず、私は対岸のアフリカの地は見えないと思っていました。自転車を止めて目をこらすと、彼が言うように確かにボンヤリと陸地らしいものが見えてきました。
「おおッ、何かウッスラと見えるなァ」
「見えますよネ!」
「うん、確かに。あしたの今ごろは、あの辺を走ってるかもな」