1983年4月13日(水)、リビアへの入国を断念した私たちは再びヨーロッパへ。W君とは一緒にイタリアからギリシャまで走ります。
なかなか始まらないパスポート・コントロールにイライラしながら、午後7時になり、やっとフェリーに乗船できました。
ほどなくして、チュニス発イタリア Napoli (ナポリ)行きのフェリーは出航、途中シチリア島の Palermo (パレルモ)を経由する23時間の船旅が始まりました。
フェリー料金は自転車の運賃を含めて約16,000円です。〔イギリス、スペイン間の12,600円と比べると、運航距離も短いしちょっと高いかもナ?〕
イタリア料理が食べたいこともあり、私とW君は船上レストランで夕食をとるつもりでした。
早速レストランへ。ところが、乗船チケットをチュニジアのディナールで購入したのですが、困ったことに船の上で使えるお金はイタリアのリラだけでディナールが使えません。[聞いてないよ、教えといてよ]
ちょうどレストランに居合わせた船長に聞いてみることに、
「リラの持ち合わせがないんですけど、この船に両替所はありますか?」
「ありません。両替なら明朝シチリア島の銀行でどうぞ」
無理を承知で聞いてみました。
「ここで食事をしたいんですけど、ディナールじゃダメですか?」
「それはできません。リラでお願いします」
ここで、船長とのやり取りを見ていたイタリア人の若いカップルから申し出がありました。
「困ってるみたいだね。いいよ、夕食代を貸してあげるよ。ディナールは当分使わないと思うから、リラに両替したら返してよ」
「本当? 助かるよ。ありがとう。両替したらすぐ返します」
ラッキーにも親切なカップルに夕食代10,0000リラ=約1,800円を借りることができ、この場は事なきを得ました。
翌朝フェリーは経由地シチリア島のパレルモの港に到着。乗客の乗り降りのためにこのパレルモで4時間停泊をします。私たちは両替のために、フェリーの事務所に預けたパスポートをもらいに行きました。
パスポートを預けることは滅多にないことで、というか私には初めてのことです。スペインやモロッコへ渡る過去二回のフェリーでは、もちろんそんな経験はありませんでした。
ところが、イタリア政府か船会社かそれとも船長の意思なのか、このフェリーではパスポートを預かるのが決まりのようでした。すべての人かどうかわかりませんが、私たちは多くのチュニジア人と同じように乗船時にパスポートを預けるように言われました。
「両替しに行きたいのでパスポートを返してください」
「パスポート? それだったら船長に聞いてくれ」
「船長はどこにいますか?」
「下でここで降りる客のチェックに立ち会っているはずだ」
フェリーの乗降口では乗り込んできた税関係官によって、下船していく自動車のチェックが始まっていました。
リードに繋がれた麻薬探査犬が車のウチソトとせわしなく嗅ぎ回っています。アフリカから持ち込まれる大麻のチェックをしているのでしょう、私はこの時始めて麻薬探査犬の仕事ぶりを目にました。探査犬はシェパードやレトリバーなどではなく、小型犬だったような気がします。